○自宅リビング
ルームウェア姿でスマホを見つめながら頭を悩ませている初。
スマホの画面には山内からのメッセージで「今度一緒にご飯行こうよ」と表示されている。


初「はあ……どうしよう」
初(まさか山内先輩に告白されるなんて……)
颯希「初?」
初「わあっ」


颯希に話しかけられ、驚いてスマホを落としてしまう初。


颯希「そんなに驚かなくても」


初のスマホを拾い上げる颯希。


初「ご、ごめんねお兄ちゃん」
初(……って、私ってばなんて格好してるの!? 今日はお兄ちゃん、遅くなるって聞いてたから油断してた〜〜)


ルームウェア姿を見られて恥ずかしくなる初。
スマホの画面が目に入ってしまう颯希。


颯希「……これ、彼氏から?」
初「えっ!? 違うよ! 大学の先輩……」
颯希「ふうん。デートに誘われたんだ?」
初「デートなのかな……」
颯希「乗り気じゃないならやめたら?」


真顔でスマホを返す颯希。


初「えっ……」
颯希「違う? 乗り気じゃないように見えたけど」
初「あんまりよく知らない先輩だから、迷ってるだけだよ」
颯希「迷うくらいならやめた方がいい」
初(なんかお兄ちゃん、怒ってる……?)
颯希「恋愛するなら添い遂げるくらいでないと」
初「え……お兄ちゃん、意外とカタイ」
颯希「当たり前だろ。妹の相手がいい加減な男でいいわけない」
初(ああ、そうか……兄として心配してくれてるんだ――)
初「大丈夫だよ。私もう子どもじゃないから」


切なそうに無理をして笑顔をつくる初のアップ。


初モノローグ【心配してくれる気持ちは嬉しいのに、お兄ちゃんの恋愛対象にはならないんだと思うと心が痛い――。
やっぱり、この恋は諦めないとダメなんだ】


○週末・ショッピングモール
笑顔で手を振る山内。


山内「初ちゃーん!」
初「山内先輩、今日はよろしくお願いします」
山内「カタイなぁ。緊張してる?」
初「えっと、ちょっとだけ……」
初(山内先輩のこと前向きに考えてみようと思ったけど、実はデートなんて初めてなんだよね)


少しだけ頬を染める初にニンマリと笑う山内。


山内「かわいいなぁ、初ちゃん」
初「え?」
山内「よし、行こう! 何食べたい? なんでも奢るからさ」
初「いえ、そんなの申し訳ないです」
山内「デートなんだよ? 任せなって」


ウインクしてみせる山内。


初「では……ありがとうございます」
山内「ふふっ、どーいたしまして!」


レストランに入ってパスタを食べたり、ウインドウショッピングをする楽しそうなデートシーン。


○カフェ
山内はパフェ、初はケーキを食べている。


初(なんか意外と楽しいな。話も食べ物の好みも合うし)
初「山内先輩も甘いもの好きなんですね」
山内「好きだよ。でも男一人だとこういうところ入りにくいからさぁ。初ちゃんいて良かったわ」
初「そうですか? 甘いもの好きな男性って珍しくないと思いますけど」
山内「マジ? 初ちゃん的にアリ?」
初「そうですね。アリだと思います」
初(お兄ちゃんも意外と甘いもの好きなんだよね――ってダメじゃない! デート中にお兄ちゃんのこと考えちゃうなんて……)


脳内に浮かんだ颯希の顔を掻き消しながら、ケーキを食べる初。


山内「――ねぇ、初ちゃん。やっぱり俺たち付き合おうよ」
初「えっ……」
山内「俺、もっと初ちゃんと一緒にいたい」


熱のこもった視線で初を見つめる山内。


初「っ、はい……よろしくお願いします」


ぺこっと頭を下げる初。


山内「えっ、マジで!?」
初「はい。山内先輩と一緒にいるの、楽しいので」


ニコッと微笑む初。

初モノローグ【この気持ちは嘘じゃない。まだ山内先輩のこと好きになったわけではないけど、もう大人なんだから。こんな恋の始まり方もアリだよね――?】


○夜・駅前

初「送っていただいてありがとうございました」


お辞儀をして駅の方に歩き出そうとする初の手を掴む山内。


初「……先輩?」
山内「このまま帰るの?」
初「? はい」
山内「俺はもっと一緒にいたいんだけど」
初「あ……」


ドキッとする初。


山内「俺のうち来ない?」
初(今日付き合い始めたばかりなのに、もう家……?)
初「えっと、家族が心配するので」
山内「門限? 大学生なのに?」
初「そういうわけではないですけど……」
山内「彼氏の家に行くって言えば大丈夫だよ」
初「えーーと……」
初(いきなり家に行くのはハードル高いかも)
初「すみません、明日1限からなので。今日はこれで失礼しますね」
山内「チッ」


突然舌打ちする山内。驚く初。


山内「なんだよ、それ。俺が来いって言ってんのに」
初「え……」
山内「ウブっぽいからすぐヤらせてくれると思ったのにさー」


好青年だった山内が豹変する。


初「ヤ……っ!?」
山内「俺さー、初ちゃんみたいな男慣れしてないピュアな子が大好きなんだよね。男を知らないからちょっと優しくしたり甘い言葉をかけるだけでコロッといっちゃうし」
初「な……っ!」
初(山内先輩ってこんな人だったの!?)
初「帰ります! 付き合うって言ったのもなかったことにしてください!」


怒って帰ろうとする初の腕をガシッと掴む山内。


山内「待てよ。ここまできて帰すわけないだろ」
初「やだ、はなして……っ!」
初(誰か……!)


グイッと強い力で山内から引き剥がされる初。
初の肩を支え、抱き寄せる颯希。山内のことを睨み付けている。


颯希「初に触るな」
初「お、お兄ちゃん……」
初(どうしてここに?)
山内「な、なんだお前……」
颯希「嫌がる相手を無理矢理連れ込もうとする行為は刑法220条、監禁罪に問われる可能性がある。未遂でもだ」
山内「なっ……」
颯希「更に性的な目的ならば、刑法177条強制性交等罪にあたるかもな――」
山内「うぐ……っ、クソッ!」


焦った表情を浮かべて逃げ去る山内。ホッと安堵する初。


颯希「初、大丈夫? 何もされてない?」
初「大丈夫、ありがとう。でも、どうしてお兄ちゃんがここに?」
颯希「遅いから迎えに来たんだよ。メッセージも入れたけど」


颯希の背後に車が停まっている。
スマホを見てメッセージに気づく初。


初「ごめん、気づいてなかった」
颯希「いいよ。帰ろうか」
初「うん……」


○夜・車の中
運転する颯希と助手席に座る初。
初はチラリと颯希を見やる。


初(お兄ちゃん、ずっと黙ってるな……)
初「あの、ごめんなさい」
颯希「なんで謝るの?」
初「だって、呆れてるでしょ……?」
颯希「呆れる? 腹が立ってるだけだよ」
初「ううっ、ごめんなさい」
颯希「初にじゃない、あの男に。初を怖がらせて傷つけることして、許せないだろ」
初「お兄ちゃん……」
初(やばい、泣きそう……。ほんとはすごく怖かった。優しいと思ってた先輩があんな風に――)


じわり、と涙ぐむ初。


颯希「……初にはもっといい人がいるよ」
初「そうかな……」


涙を堪えて笑おうと努める初。


颯希「いるよ。誠実で優しくて初だけを想ってくれる人がいる」
初「そんな人いるかなぁ」
颯希「たとえば、俺とか」


運転しながらも少しだけ視線を初に向ける颯希。
真剣な表情をしている。


初(え……?)


初の世界が一瞬だけ止まったようなシーン。


初(それって、どういう――)


視線をフロントガラスの向こうに固定したまま、ハンドルをギュッと握りしめる颯希。


颯希「……なんてね。要するに俺みたいな男を選べってこと」
初「えっ……、何それ」
颯希「まあ俺でもいいんだけど。いっそ俺にしとく?」
初「……っ!」


ドキッとしてしまう初。すぐに笑顔をつくる。


初「もう、お兄ちゃんったら」


初モノローグ【期待なんかしちゃダメ。お兄ちゃんが私を好きになるなんて、あり得ないんだから】


颯希「……義兄妹でも、結婚できるけどな」


ボソリと呟く颯希。初には聞こえていない。