○ヒーロー・颯希とヒロイン・初のアップ
真顔で初を見つめる颯希と赤面して戸惑う初。
颯希「俺は初のこと、義妹だとは思ってない」
初「えっ……」
初(お、お兄ちゃん――?)
○大学一年初夏・初のアルバイト先のコーヒーショップ
オウルカフェというコーヒーショップ。
楽しそうにフラペチーノを作る初のアップ。
初「お待たせいたしました! キャラメルフラペチーノでございます!」
女性客「ありがとうございます〜」
初「ありがとうございました!」
ヒロイン・柄長初、大学一年生。母子家庭で育ち、奨学金を借りて大学に通っている。
カラン、とドアのベルが鳴ってスーツ姿のイケメンが現れる。
ヒーロー・鷹宮颯希、28歳。弁護士。勤め先の法律事務所とオウルカフェが近く、よく利用している。
颯希の姿を見てポッと頬を赤らめる初。
初「い、いらっしゃひませ……!」
初(うっ、噛んじゃった!)
ポカンと初を見つめた後、クスッと微笑む颯希。
颯希「ブレンドコーヒー、一つ」
初「はっ、はい! ありがとうございますっ」
初(ひゃ〜〜今日もカッコいい……!)
ブレンドコーヒーを用意しながらドギマギする初。
時計を確認しながら待っている颯希。
初モノローグ【よく来てくれるこの常連さん、ものすごくイケメンで密かに気になっている人。
スーツの襟についてるバッジを見る限り、多分弁護士だよね――?】
颯希のスーツの襟に付けられた弁護士バッジのアップ。
初(エリートイケメン、私とは縁遠い人だなぁ……)
初「お待たせいたしました! ブレンドコーヒーでございますっ」
颯希「ありがとうございます。……あれ、これは?」
コーヒーと一緒に添えられたチョコレートを見て、きょとんとする颯希。
初「あっ、こちらはコーヒーを頼まれたお客様にサービスでお渡ししてるんですよ! 良かったら甘いもの食べてお仕事への活力にしてください!」
初(……って、何言ってるんだ)
初「すみません、いらなかったですかね……」
颯希「いえ、いただきます。ありがとう」
颯希の柔らかい笑顔にハートを撃ち抜かれる初。
初「あ、ありがとうございましたっ」
ぺこっと頭を下げる初。
初(ああ、やっぱり素敵だなぁ……)
初モノローグ【見ているだけの密かな片想い、そう思っていたけれど――】
○大学・講義室
授業が終わり、帰り支度をする初に友人たちが話しかける。
友人A「初〜! 今日バイト休みでしょ? カラオケ行かない?」
初「ごめん、今日はこの後用事があって……大事な日なんだ」
友人B「えっ、デート!?」
初「ううん、お母さんの再婚相手と会うの」
友人A「そうなの!?」
初「うん、だからごめんね」
友人B「緊張するね。頑張ってね!」
初「ありがとう」
笑顔で手を振り友人たちと別れる初。
初モノローグ【お母さんは私が幼い頃に離婚して以来、女手一つで私を育ててくれた。
今までなんでも私最優先で頑張ってくれたお母さんだから、再婚すると聞いた時は嬉しかった】
初(どんな人かな? 確か息子さんも一緒に来るってことだったけど――仲良くなれるといいな)
○レストランの前
フォーマルなワンピースに着替え、母の隣で緊張している初。
目の前にスーツ姿のダンディな男性と背の高い青年がこちらにやってくる。
鷹宮「お待たせいたしました」
初(えっ……)
初母「初、紹介するわね。鷹宮さんよ」
鷹宮「初めまして、初さん。鷹宮雅幸と申します。こちらは私の息子の颯希です」
颯希「初めまして」
初(えっ、えっ、うそ!? この人って……!)
颯希のアップ。初に気づく。
颯希「――あれ、オウルカフェの店員さんですよね?」
初「!!」
鷹宮「知っていたのか?」
颯希「事務所の近くのカフェでよく会うんだ。ですよね?」
ニッコリ微笑む颯希にドキッとする初。
初「はっはい! いつもありがとうございます!」
初母「まあそうだったの。改めまして、柄長紀子と申します。よろしくお願いします」
初「柄長初ですっ!」
颯希「初さん――よろしくね」
初「よ、よろしくお願いします……っ」
○レストラン中
四人でテーブルを囲む。
初(まさかあの常連さんがお母さんの再婚相手の息子さんだったなんて……!)
鷹宮「初さんは大学生だそうですね」
初「はい、大学一年です」
鷹宮「ということは、颯希とは九つ離れているのかな?」
颯希「そうだね」
初(私の九つ上ってことは、28歳かな?)
鷹宮「かわいい妹ができて良かったな、颯希」
颯希「そうだな。初ちゃんって呼んでいい?」
初「えっ、えっと……なんでもいいです」
颯希「そう? じゃあ初にしようかな」
鷹宮「いきなり馴れ馴れしいんじゃないか?」
初「いえ! 呼び捨てでいいです」
颯希「じゃあ初って呼ぶね」
微笑む颯希にドキドキが止まらない初。
颯希「あと敬語じゃなくていいよ」
初「えっ! でも、」
初母「お言葉に甘えさせてもらったら? 兄妹になるんだもの」
初「あ……」
初(兄妹……)
初母「いっそのことお兄ちゃんって呼ばせてもらったらどうかしら?」
鷹宮「ははっ、それはいいなぁ!」
颯希「いやいや……好きに呼んでくれていいよ、初」
初「お、お兄ちゃん」
ポツリと呟く初の顔を他三人が見つめる。
初「お兄ちゃんって……呼んでもいい、かな?」
すごく恥ずかしそうにしながら、勇気を出して訊ねる初のアップ。
颯希「うん、いいよ」
少し驚いたような表情をした後、柔らかく微笑む颯希。
颯希「……結構照れるね」
鷹宮「いいじゃないか! 初さん、颯希のことよろしくお願いします!」
初母「こちらこそ! 初のことよろしくお願いしますね、颯希さん」
鷹宮「せっかく家族になるんだ。四人で一緒に住もう」
颯希「え、俺も? 一人暮らししてるのに?」
鷹宮「当然だろう。家族なんだから」
初(えっ、一緒に住むの!? どうしよう……)
初母「初もそれでいいかしら?」
初「も、もちろんだよ……」
初モノローグ【私は敢えて颯希さんのことをお兄ちゃんと呼ぶことにした。今思うと、これは“戒め”だった】
○数週間後・新しい自宅
引っ越しの荷解きをする初、颯希、両親。
段ボール箱を運ぶ初、物につまずいてよろける。
初「わっ……!」
颯希「おっと」
初を支える颯希。
颯希「大丈夫?」
初「あ、ありがとうお兄ちゃん」
ドキドキが止まらない初。颯希、初から段ボールを受け取る。
颯希「持つよ。どこに運べばいい?」
初「えっ、大丈夫だよ」
颯希「こういうことはお兄ちゃんに任せなさい」
初「っ、ありがとう……」
初モノローグ【“お兄ちゃん”って呼ばないと、私の気持ちが溢れ出てしまいそう。
ダメだ、家族を壊さないためにもいい妹でいなきゃ】
和やかに会話しながら引っ越し作業を進める両親と、床に落ちているものをさりげなく拾ってくれる颯希。
その様子を見ながら切なそうに見つめる初。
初モノローグ【やっとお母さん自身の幸せが手に入ったんだから――】
○別の日・初の部屋
PCに向かい、ゼミのレポートを作成している。
コンコン、と部屋がノックされる。
初「はぁい」
颯希「初、入ってもいい?」
初「い、いいよっ」
思わず鏡を見て前髪を直す。
ガチャリとドアが開き、マグカップを持った颯希が入る。
颯希「ホットココア飲まない?」
初「えっ、飲む! ありがとう」
颯希「甘いもの飲んで活力にしてよ」
初「えっ」
颯希「なんてね。初の真似してみた」
悪戯っぽく笑う颯希。マグカップを両手で握りしめる初(髪の毛が口元にかかってしまっている)。
初「覚えてたの……?」
颯希「覚えてるよ。結構嬉しかったから」
初「ほんと?」
颯希「いつも楽しそうに働いてるなぁって思ってた。まさか妹になるなんてね」
初「それは私もびっくりした」
じーーと初を見つめる颯希。
初「な、何……?」
指ですくって口元にかかっていた髪の毛を取る。
初「!?」
颯希「いやごめん。ずっと髪の毛食べてたから」
楽しそうに笑う颯希。
初「えっ! やだ、先に言ってよっ」
颯希「あははっ」
初モノローグ【こんなやり取りができるのも、私が“義妹”だから。
わかってるのに、好きになっちゃいけないのに、止まらなくなる】
初(ダメだ、私……お兄ちゃんのことが好きだ――)
○一年後・オウルカフェ
バイト終わりに高校からの友人・マヤと話している。
初「ああ、どうしよう……」
マヤ「義理のお兄ちゃんにガチ恋しちゃった話?」
初「言わないで!」
マヤ「別に良くない? 義理なんて他人じゃない」
初「……再婚してからお母さん、すごく楽しそうなんだ。お父さんは優しくてすごくいい人で、今の家族でいるのが楽しくて」
マヤ「良かったじゃん」
初「だから壊したくないんだよ。お母さんにはずっと苦労してきた分、幸せになってほしいの」
マヤ「でも好きになっちゃったんでしょ?」
初「うぅ〜〜……」
頭を抱える初。
マヤ「だったら新しい恋探すしかないね」
初「えっ?」
マヤ「大学にいい人いないの? 合コンとか行く?」
初「あ〜〜〜〜……そういうのはちょっと……」
○翌日・大学講義室
講義開始前、ノートを準備している初。
初(合コンとかは苦手だから遠慮しちゃったけど、新しい恋かぁ。できるのかなぁ)
山内「初ちゃん!」
同じ授業を取っている三年男子・山内が呼びかける。
初「山内先輩」
山内「隣いい? どこも空いてなくてさぁ」
初「どうぞ」
初モノローグ【山内先輩は三年生で前にグループワークをする時に同じグループになって、それから話すようになったんだよね】
山内「ありがとう。初ちゃんの隣に座れてラッキー!」
初「あ、またノート貸してって言うつもりですね?」
山内「あは、バレた?」
初「も〜。仕方なくですよ?」
山内「初ちゃん優しい! ありがとう! 大好き!」
初「……大好きとか、軽々しく言わない方がいいですよ」
初(山内先輩、イケメンでコミュ力も高いしモテるから、山内先輩のファンに目付けられたくない……)
山内「いや、軽々しくじゃなくてガチだよ」
初「え?」
山内「俺、前からずーっと初ちゃんのこといいなって思ってたけど」
初「え、えっ?」
山内「初ちゃん、俺と付き合わない?」
初(えぇーーーー!?)



