日日是好日を望む

 ツムギは漫画家になる夢を抱えていた。同時に、漫画好きが高じて描く側になったところで、それを生業する事は難しい現実をツムギは理解していた。高校を卒業したら、結婚して子供を産んで育てていく未来が待っている。婚約者はツムギの趣味に理解があるから漫画を読んで描く事を咎める事はないだろう。同じ漫画同好会に所属する同級生は、漫画家デビューを夢見て家族からの勘当承知で将来を立てている。羨ましくもあり、だからと言ってツムギは別に家族と仲違いしたいワケではなかった。
 二律背反で鬱屈していた頃、第三の選択が現れた。嫁に行かず異母兄が跡を継ぐ実家に寄生する必要もない、海外への移住。早い話やや規模の広い家出だ。養父母は全面協力しているので家出というより出奔か。自分が持ち運べる量まで私物を絞り込んだ鞄を背負ってゲートを通る。親戚宅へ下宿が決まっているとはいえ、親元を離れての海外生活は不安で一杯だ。しかし美貌の婚約者の愛人になりたい女どもを対処し続ける結婚生活よりは断然マシ。
 ――かつて漫画家になる夢をみていた少女は数年後、挿絵画家として生計を立てつつ子供にも恵まれて穏やかな人生を送った。母国は政変により三つに分かれた勢力抗争が繰り返され、国としての機能を著しく喪っていった。