未来からの鏡 5年先の未来が見えたのよ、鏡に映っているカレンダーは2029年だったのよ

【不思議な鏡】

「ほら、取れたでしょう。」

 知恵の輪を外した屈子(くつこ)がにこやかに言った。

「知恵の輪、好きねぇ。この難しそうなものも外せるの?」
 私は机の隅にあった、ぐちゃぐちゃとした知恵の輪を渡した。

「そりゃ、簡単だよ。ちゃちゃちゃっと。」
 そう言いながら、簡単に知恵の輪を外した。

 屈子は知恵の輪が好きらしい。自分の考えた知恵の輪も作ってみたいとも言っていた。


「そういえば、前回のテスト、あまり点数がよくなかったみたいだね。」
 いきなり屈子が話を変えてきた。

 確かに点数は良くなかったが、何もここで話さなくても……と思った。

「しょうがないよ。できないんだもん。どうやっても良い点は取れないよ。未来は決まっているのよ。」
 私は開き直った顔でそう言った。

 そうこうしているうちに午後の授業が始まった。

 授業中、先生が机の順に生徒に問題を出す。
 大抵が教科書の問いや文章の順なので、自分がどの問題にあたるかだいたいわかる。
 なので、生徒は他の生徒が答えているのを聞かずに、自分が当たるであろう問題を解いている。

 そろそろ、私の番が来るかなってところで……

『キーンコーンカーンコーン』

 下校の鐘が鳴った。


 私、『穂乃花(ほのか) (ひかる)』は友人の『屈子(くつこ)』と一緒に帰っていた。

 他愛もない話をしながら、ふと隅に目をやると、なにやら光るものがあった。
 二人がそこで近づいていくと、それは楕円型の古ぼけた鏡だった。
 長径は手のひらほどであろうか。

「もったいない。持って帰ろう。」
 そう言いつつ、私が鏡を持ちながら歩こうとすると、「いやいや。汚いし、そのまま置いていこうよ。」と屈子が言った。

 私はこういう得体のしれないものを集めるのが趣味なので、屈子の助言を聞かずに持って帰っていった。

 家に着いてすぐに鏡をタオルで拭いた。
 汚そうな鏡だったが、汚れはあまりこびりついていなかったらしく、すぐに綺麗になった。

 ちょうど小さなスタンドを持っていたので、それに掛けて、机の上の隅に置いておいた。

「うんうん。顔も見られるし、部屋の様子も映っている。」

「さすが。鏡。」
 と私はちょっと意味の分かるような分からないようなことを言って、部屋を出て行っていった。


 翌日、屈子と鏡の話をしたが、
 意外に汚れてなかったこと。机の隅に置いたこと。
 そのぐらいしか、この事に関しては話題がなかった。


 ある日。

 私が部屋で勉強しているときに、ふと鏡に目をやったら、壁に貼ってあるカレンダーが映り込んだ。

 なんとなく映りこんだカレンダーを凝視してみると、驚いて、椅子から転げ落ちた。
 鏡に映りこんだカレンダーには『2029年』と書いてあるのだ。

 私は即座に直に壁に貼ってあるカレンダーを覗き込んだ。
『2024年』となっていた。

 当たり前である。
『2029年』のカレンダーなんて、そうそう売ってないし、
 私が貼る意味もない。

 私は怖くなって、そのまま寝込んでしまった。
 幸い、斜めから鏡を見たので、自分の顔は見ていなかった。


 翌日、恐る恐る鏡で自分の顔を見てみた。
 特に5年後の顔というわけでもなく、普通に自分の顔が映っていた。

「昨日の出来事はなんだったんだろう。」と
 私は一人でつぶやいた。


 今日は早めに家を出た。
 このことを屈子に知らせたかったのだ。
 鏡のそばにいたくなかったこともあるけど。

 学校の教室に入ると、すでに屈子がいた。
 彼女は何事も早め早めにする人なのだ。


「じつは…」
 私は昨日のことを屈子に話すが、もちろんまともに相手にされなかった。

 しかし、何度も話している私の目を見て、ちょっと普通じゃないことに気づいたのか、今日の夜、一緒に鏡を見てみることにした。
 本当は下校してから、すぐに見てほしかったが用事があるらしかった。

 学校の授業中、私はまったく勉強に集中できずに、鏡の事ばかり気になっていた。
 こういう時に限って、時間が進むのが遅く感じ、イライラしっぱなしだった。


『キーンコーンカーンコーン』

 やっと学校の終わりの合図だ。
 屈子は先ほど言っていた通り用事があるので、私は一人で家へ帰った。

 自分の部屋へ入り、恐る恐る鏡を見てみたが、まったくもって普通の鏡だった。

 このままだと、私は屈子に狂人扱いされてしまうかも。
 でも、鏡が再び未来を映し出すよりはマシかもって思った。

 窓から空をぼーっと眺めていたら、いつのまにか空が暗くなっていた。


『ピンポーン』と玄関の呼び鈴が鳴った。

「遅くなってごめん。」
 屈子がそう言いながら、私の部屋にずんずんと向かっていった。

 なんだ。屈子も興味があったんじゃない。
 そう思いながら、部屋へ招いた。


 部屋へ入って、一緒に鏡を見てみたが、先ほどと同じく、特に変わった様子もなかった。

「全くもう。これ、ただの鏡でしょ。」
 屈子はあきれた様子で言った。

「まあいいわ。そうそう、今日は月が綺麗なんだよ。」
 屈子はカーテンを開いた。

「ほんとだ。すごく綺麗ね。」
 そう言って、私は下へジュースを取りに行った。

 私はなんだかすごく楽になった気がして、階段を下りて行った。
 台所でジュースをコップへ注いで、自分の部屋のドアを開けると、おびえた様子で屈子が鏡を見ていた。


「鏡に知らない人がいる……」
 屈子は体をガタガタさせ、そう言った。

 怖かったが、私も鏡を覗いてみた。

 知らない顔が二人いた。

 私はふと昨日の出来事を思い返した。
 あの時に見えたカレンダーは2029年。
 この鏡に映っている人達は、5年後の私達ではなかろうか。

 鏡に映っている二人の後ろの部屋の様子を改めて見てみると、置いてある家具や貼ってあるポスターなどの位置などが変わっていたりしていた。

「これは5年後を映す鏡だ。」
 私はそうつぶやいた。

 屈子もなんとなく理解したようで、少し落ち着いてきた。

 私はさっきと何が違うか、記憶をたどった。
 月を見ようとカーテンを開けたことしか、思い出さなかった。

『サッ』
 私はカーテンを閉じた。

 鏡はいつもと同じ様子を映していた。

 この鏡は月の光を浴びると、未来を映し出すのかもしれない。

 恐ろしいものを手に入れてしまったようだ。

 二人はこれは非常に恐ろしい物であり、使わないようにと適当な箱を探しだし、鏡を封印した。