ソラが笑った日

 粉塵の中で、ようやく揺れがおさまった。
 けれど部屋の半分は瓦礫に埋まり、
 ソラの背中には、重い天井材がのしかかっていた。

「ソラ! 動かないで! 今、助けるからっ!」

 真奈は必死に瓦礫に手をかけた。
 けれど、人ひとりではびくともしない。
 手は震え、呼吸がうまくできない。
 涙で視界がにじんだ。

「……真奈」

 呼ばれた声は、不思議なほど穏やかだった。

 顔を上げると――
 ソラが、優しく微笑むような目で真奈を見つめていた。

「真奈に……出会えて、僕は……幸せでした」

「そんなこと言わないで! ダメだよ!
 まだ……まだ一緒にいたいの……!」

 涙が止まらない。
 手が力任せに瓦礫を掴むけれど、どれも動かない。

「ありがとう……真奈」

 胸元のペンダントが、粉塵の中できらりと光った。
 それがまるで“別れの合図”みたいで、真奈は首を振った。

「やめて……お願い、行かないで……!
 ソラぁ……ッ!」

 叫びながら、真奈は彼の腕を強く掴んだ。

「私を置いていかないで! 一人にしないでよ……!
 いやだよ……いやなの……!」

 ソラはかすかに、ほんとうにかすかに微笑んだ気がした。

 そして――
 静かに、ゆっくりと目を閉じた。

 全身から、力が抜けていく。

「いやぁああああっ!!」

 真奈の絶叫が、崩れた部屋に響き渡った。

 ソラの腕はまだ真奈を抱きしめたまま。
 でも、その体はもう動かない。

 瓦礫の静寂の中、
 真奈の泣き声だけが、長く、長く響き続けた。