ソラが笑った日

 その夜も真奈はリビングでソラと過ごしていた。
 新しい生活にも少しずつ慣れてきて、ぎこちなさの中に笑いが混じるようになってきた。

「真奈の笑顔は、かわいいです。ずっと見ていたい」

 突然、ソラが真顔で言った。
 アイドル番組を真似しているのだとわかっていても、真奈の顔は一気に熱くなる。

「な、なに言ってんのよ! そんなセリフ、誰に教わったの!?」

「テレビと、雑誌です。……嬉しいですか?」

 じっと覗き込まれて、ますます頬が赤くなる。
 真奈はたまらずソファのクッションを投げつけた。

「うるさいっ! そういうの真剣に言わないで!」

 クッションを受け止めたソラは、少しだけ首を傾げ、それから部屋の隅に目をやった。
 そこに置かれた大きなぬいぐるみを手に取る。

「……これは」

「え、それ? 昔ゲーセンで取ったやつ。かわいいけど場所取るから、もう邪魔かなって思ってた」

 真奈が苦笑すると、ソラは無言でぬいぐるみを抱きしめた。
 ぎゅっと、その胸に。

「柔らかい。……安心します」

「……え、ちょっと。ぬいぐるみ抱いて安心してるアンドロイドって、どうなの?」

 思わず突っ込むと、ソラはほんの少しだけ得意げに微笑んだ。

「これも……学習です」

 その答えに、真奈は思わず吹き出してしまった。

「やっぱりポンコツなんだか、可愛いんだか……」

 笑いながらも胸の奥がほんのり温かくなっていることに、真奈は気づいていた。