ソラが笑った日

 四月の夕暮れ、仕事を終えてマンションに帰り着いた佐伯真奈は、玄関先に置かれた大きな箱を見て立ち止まった。

「……え、これ、まさか」

 段ボールには「サポートアンドロイド《ソラ》」と太字のラベル。
 先週、思わずネットで申し込んでしまった“新生活応援キャンペーン”の品だった。

 新社会人になって二週間。慣れない仕事に追われ、家に帰っても部屋は静か。
 寂しさと疲れに押されて「誰かが待っててくれたらなぁ」と軽い気持ちで注文したのを思い出す。

 箱を開けた瞬間、真奈は思わず息をのんだ。

 そこに立っていたのは、長身で整った顔立ちの青年。清潔感のあるシャツにジャケット姿は、まるで王子様みたいに完璧。

「……え、ちょ、ちょっとイケメンすぎない?」

 真奈が呟いた途端、青年は無表情のまま口を開いた。

「初期設定を開始します。ユーザー名を確認――佐伯真奈さんですね。登録完了」

「え、あ、はい……」

「本日一日の歩数は九千二百五歩。推奨休養時間は八時間です」

「……いや、いきなり歩数報告!?」

 思わずツッコミを入れる真奈。

「おかえりなさい、とか言ってくれてもいいんじゃないの?」

「……“おかえりなさい”――登録完了。次回以降、同様に発話します」

「ちょっと待って、それじゃただの録音じゃん!」

 見た目は完璧な王子様。
 けれど、中身はマニュアル通りで融通ゼロ。

 疲れを癒すどころか、ツッコミどころ満載の新しい同居生活が、こうして幕を開けた。