あの花火をまたあの病室で

「あーーーー緊張するー...」
「何が?」
8月始まり、エアコンの効いた部屋でベットにうつ伏せて叫ぶ夏華。本を開いてた俺は少し本を閉じて足元にいる夏華を見る。

「明日発表なんだよ...」
下を向いていた顔をこちらに向け言う夏華。
「発表?」なんのことか分からなく聞き返す。
「うん、私今月に手術するって言ったじゃん?」
「あぁ言ってたな」
「あれまだ決定じゃないんだよね」
ん?どういうことだ?夏華の一言で俺の頭の中にハテナが生まれる。

「私が受ける手術って誰かの目をもらう手術なの」


「だからその目をくれる人が見つからない限り手術ができないんだよね」
へぇじゃあ明日代わりの目が見つかったかわかるのか、初めて知った。

「なんか緊張を抑える方法ない?」
「知らない」
緊張をすることあんまりないから。俺は物心つく前から色んな手術を受けてきたから別に緊張もしないし心配もない。
どうせいつか燃え尽きる命だから、それがただみんなより燃え尽きるのが早かっただけ。

「えぇ、ハルはいつもどうしてるの?」

「俺?俺は考えないようにしてる」
「考えないようにねぇ...」
ため息混じりに言う夏華、夏華でもこんなふうになるんだな…

「そういえばなんだけどさ」
「ん?」
「ハルっていつからここにいるの?」
いつからか...いつからなんだろうな...

「俺は覚えてないほど前から」
ほんと記憶がないほど前から俺はここにいる。俺の病気はいわゆる心臓病。
簡単に言えば運動など動いたりすると血管が小さくなり体に上手く酸素が回らないという病気。だから昔から思いっきり走り回ったことがない。
「そんな前からこんな狭い所に一人でいるんだね」
声のトーンを少し下げて言う夏華、狭いところね…たしかに昔は寂しかったな...けど

「まあもう慣れっこだけどな」
本に目線を戻しながら言うすると夏華は勢いよく顔をあげ
「慣れちゃダメだよ、こんなとこ」
慣れちゃダメって...言われても俺はここから出られない、そういう宿命だと思ってる。

「行ったみたいとことかないの?」
行ってみたいとこ...

「海とか?」
「海!!いいね!」
笑顔で楽しそうに目をキラキラさせる夏華、小さな子供みたいだ。そう思っていると
「じゃあさ!行こうよ!海!」
そう言われてつい俺は「は?」と言ってしまう。
「は?じゃなくて!すぐそこに海あるじゃん!」

「黙っていくと怒られちゃうけど許可を取れば行けるんじゃない??」
今まで以上に楽しそうにテンションをあげて言う夏華。
「たしかに..」
最近は調子がいいほうだし今日の検診で聞いてみようかな。

「聞いてみてよ!今度!私も聞いてみるからさ!」
今まで自分では思わなかったことの提案につい俺は期待をして
「わかった俺も聞いてみる」

「よし!じゃ!私検診の時間だからついでに聞いてくる!」

そう言って部屋からスキップで出ていく夏華を見て、楽しそうだな。


そう思いながら読み途中の本を広げる。


窓の外には青空と大きな入道雲が浮かんでいた。