甘々とロマンス中毒

𓂃❁⃘𓈒𓏸

「今度のお休み、あやちゃんの家行っていい?」

見送りの玄関先で、一咲がぽわ…と眠たげに瞼を柔く擦った。

まだ、夢心地なのか。ゆらりと尋ねる声には、甘やかさが含まれている。


「どうなっても知らないよ」

「うん」


意味、わかってないだろ。危機感なさすぎ。

ほんのりと色づいた涙袋の下を、指の腹で掬ってみる。可愛らしい声が「…ん」と転がり、みるみる耳の裏側まで朱色を灯した。

うわ。くそ恥ずかしいことしてんな。と、心がむず痒いが、どうにか平常を保つ。

「涙の跡がある。怖い夢でも見た?」そう聞くと、一咲が首を横へ振った。伸ばした指をすっと離す。鼻を掠めるシトラスの残り香が、指先に染み付いた。


「家着いたら電話ちょうだい」

「……はぁい」


顔を赤らめながら声をしゅんと萎ませていく一咲の、密度の高い睫毛が上向きに、純粋無垢な瞳が俺を見るから、腹の中に甘ったるいものが溜まる。


「やっぱ、送ってくわ」


なんで今日はこんなに、胸が騒がしいんだろう。

一咲が目をぎゅっと瞑った。
あー…。強張るように肩が震えてるくせに、頬はしっかりと赤いんだ。なあ、矛盾してるよ。

この子は俺に食べられるとでも思ってんの?

「あやちゃ、」言いかけた一咲の、絞り出した声に扉の開く音がぶつかった。

———ガチャ インターホンは鳴らない。「お邪魔しまーす」と、久しぶりに聞いた声が鼓膜を揺さぶる。軽やかな口調につられて、一咲だけを見ていた視線を持ち上げた。