私はとある暴走族を襲撃し、追っ手から逃げていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
早く、逃げなきゃ…。
じゃないとっ…。
というか、なんであそこに〝あいつ〟が…。
狭くて迷路のように薄汚れた路地裏を走り抜ける。
そんな中、前からガタイの良い男の人が電話しながらやって来て、
「Athanasious(アタナシウス)のアジトが襲撃された!?分かった、今行く。」
あまりにも逃げるのに必死になっていた私は、その人がAthanasiousと言っていたのが分からなかった。
ただ、早く逃げたかった。
だから私は彼の頭上を飛び、体を捻って、着地した。
その時に相手の人の顔が見えて、一瞬だけ目が〝合ったような〟。
「「…っ。」」
お互いの吐息が聞こえたような気がした。
相手はさっきも言った通り、ガタイが良くて、顔立ちはこの世の人間と思えないぐらい凛々しかった。
目は意志の強さを感じるぐらい、鋭い。
そして、眉はハッキリしていてる。
今で言うと、武人顔とか凛烈顔とか?
だけど、どこか冷酷でどこか独裁的な何かを持っているような、そんな感じがした。
でも、今は彼に見惚れている場合じゃない。
逃げなきゃ。
地面に着地し、また地面を蹴って走る。
だから、私は聞こえなかった。
さっきのイケメンが
「……っ、やべぇな。墜ちた。」
『は!?総長どうしましたか!?』
「恋だ。」
『…………は…。』
「すぐそっちに行く。それまで粘れ。」
『は、はい。……聞き間違いだよな、流石に…。』
「っ!?…はぁ…はぁ…。」
あの日の夢を見て、目が覚めた。
私が暴走族を襲撃したとき、見てはいけないものを見た。
人でも生き物でも、生物ですらない…一気に脳がそれを見ただけで情報処理を拒みたくなるような感覚…。
「瑞姫お嬢様、朝から何やら魘(うな)されておりましたが大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。」
この人は私の身の回りのお世話をしてくれる、白沢(しらさわ)さんだ。
まぁ、この人の存在や私の呼び方からして私の家のことは、自分では言いたくないので察して。
「お嬢様、朝食のご用意が出来ております。」
「着替えてから来るね。」
「承知致しました。」
白沢さんが出て行ったのを確認すると、布団から起きて着替える。
私はまだ学生の身分だから通う学校の制服を着て、長い髪はおさげに瓶底眼鏡ーーーの姿。
「おはようございます、お父様。」
「あぁ。」
朝食を食べに自室から長い廊下を渡って、美味しそうな料理の前に座って食べる。
ちなみに、このお父様と呼ばれる人物は白鷹択十郎ーーー皆が想定している通り、私の実の父親だ。
そして、この白鷹家の当主だ。
名前からして七十代ぐらいの年よりと思われがちだが、バリバリの四十代である。
少し古臭い感じの人間で、頭が固く前時代的。
「今日は定例の会議がある。瑞姫も次期当主として出席するように。」
「はい、お父様。」
「それから、そんな恰好で来ることが無いように。」
「はい、お父様。」
機械のように短く答える。
ちなみにお父様は私のこのTHE・地味な姿があまり好んでいないみたいで、高校に入学するのと同時にこんな恰好をする私を一層毛嫌いするようになった。
まぁ、やめるつもりは無いのだけど…。
そんなことを考えていると、お父様はいつの間にか仕事に出かけていた。
「瑞姫お嬢様、あの任務の連絡が来ております。」
毎朝届くノルマのような任務の紙を持ってきた白沢さんから礼を言って受け取り、封を切る。
「今日は…あね。」
今日は最近学生の間で流行の心霊スポットの調査か…。
実はこの白鷹家、表向きは何かしらの企業を経営しているが(私は表の方にいることが少ないから詳しくないの)、実際は世間に蔓延る妖怪のようなものを退治している。
白鷹家以外にも妖怪を退治している団体や家庭はある。
政府非公認団体なので、表向きには活動は出来ず、依頼主からは多額の金額を支払って貰っているので、税務署に目を付けられることが無いように、お父様は表向きでは企業を経営している。
白鷹家には私以外の子供はいなくて、実質私が跡取りだ。
分家には沢山いると聞いたことはあるけど、今まで片手で数えるしか会ったことはない。
そんな次期当主の社長令嬢をしながら妖怪退治…。
この業界は非常にブラックだ。
学校に着いてまずすることは、その一。
「あの、そこ。私の席なんだけど?」
「あ?感じ悪。調子乗んなし、白鷹。」
「邪魔。」
朝から私の机にいる、スカート短めでシャツの襟は第三ボタンまで開けていてピアス金髪、と派手に校則違反の模範生のように振る舞う不良少女達三人を自分の席から退かすことから始まる。
入学してから最初の席替えで、不良少女のうち一人が私の席の隣になってしまい、残り二人が私の席を占領するのだ。
そんな中、廊下から突如として黄色い歓声が響き渡り、「凰喜先輩っ!!!!」と声が聞こえた。
不良少女三人はどうやら凰喜先輩のファンだったらしく、すぐに私の席から離れて廊下から出た。
「凰喜さん、見つけられましたか?」
「何何ー?凰喜さんは誰か探しているのー?」
「なんか、凰喜さんが一目惚れしたんだってー。」
「えっ!?嘘っ…もしかして、私のこと!?」
「チッ…いなかったか…。」
「もしかしたら、学生とかじゃなくて社会人とかないですかね?」
舎弟のような人がそう言うが、凰喜さんはまるでこの学校にいるのが確定しているかのようなことを言った。
「いや、この学校の学生証が落ちていた。」
「どんな子ですか!?」
「これだ。」
彼が持っている写真付きの学生証をチラッと見れば、その写真には私のおさげに瓶底メガネ姿じゃない私が映っていた。
え、待って…どうして…。
そこでハッとした。
そういえば、学生証の写真は入学前に撮らないとで…撮影したのは白沢さんで、場所は自宅だった。
だから、瓶底メガネにおさげ姿じゃない私が写真になっているわけだ!
幸い、姿形が違ったり、白鷹さんはこの学校にたくさんいて、私の下の名前は認知して貰えて無いみたいだから、皆口を揃えて…
「「「知らないです。」」」
と言った。
ふぅ、目立つことにならなくて良かった…。
次からは、学生証の写真を瓶底メガネにおさげ姿にしとかないといけない。
学生証が無くなって学割が使えなくなるのは痛いが、仕方ない。
来年までの辛抱だ。
そうやって安堵しきっていると、舎弟が
「その人の学生証が凰喜さんの元にあるってことは、学生証を持っていない人を探せばいいんですよね?そしたら、仮に変装みたいなことしてたら見つけ出せますよね。」
「そうだな。よし、ここにいる全員学生証を出せ。」
あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!舎弟、ちょっ…何やってくれんの!?
そんな王子様がガラスの持ち主のシンデレラを探すようなことをさ!
しかも、後ろになんか凄いガタイの良い男の人がいるんだけど!?
なんとかして、解決策を考えようとするも私の順番がやって来て、提示を怖い顔で促された。
「持ってないです…。」
そう言った瞬間に周りの人が振り向き始めた。
ちょっ、ヤバいって向こうから凰喜さんらしき人がやってくるんだけど…!?
今更だけど、あの日路地裏ですれ違ったイケメンでは!?
「持ってない?名前は?」
ちょ、直接尋問!?
うわ、女子の視線が…。
「はい、白鷹です。」
「白鷹…。この学生証の名字も白鷹だな。」
………本人ですから、なんて言えそうにないな。
「はい、この学校に白鷹はたくさんいますから。」
「下の名前は?」
「凛です。」
「白鷹瑞姫じゃないのか。」
「はい。」
入学してから不登校である白鷹凛さんの名前を使う。
皆顔を覚えてなさそうだし、使っちゃって大丈夫だろう。
今だけだから!
心の中で謝りながらも尋問は終わり、自分の席に着く。
後はいつも通り平穏に過ぎて、任務も済ました。
そして、平穏じゃなくなるお父様に来いと圧をかけられた定例会議を済ますだけで終わりだ。
時間を潰そうと散歩でもしていると、
「……っ!?」
不穏な気配がする。
仕方がない。
人目の付かない場所で能力を解放する。
ーーー能力解放・白澤。
私達のような妖怪退治をする人には生まれつき、妖怪と同じような力ーー妖力を持って生まれてくる。
妖力には様々な属性があるものの、私の場合は一つは動物系・白澤だ。
白澤は瑞獣と呼ばれて、博識で厄災から守る妖怪であると言われる。
一度能力を解放すれば白澤の姿になる。
白澤は九つの目に角が四本あって、白い毛並の牛のような姿だ。
もちろん、白澤の能力もそのまま使える。
白鷹家は代々白澤の能力が継承されるので、遺伝子のおかげだ。
ーーー白澤・森羅万象
この能力を使えば聴覚や視覚が動物並になり、劇的に上がる。
主に探索や調査に便利。
「あっちだ。」
どこからか、不穏な気配を感じ取って、路地裏へ飛び込んでいく。
そして、迷路みたいな場所を駆け抜けていけば、
「ここは…。」
人が集まっている所に抜けた。
ふと、自分がこの前襲撃した場所だということを思い出した。
とりあえず、落下攻撃が出来るように建物の上に行こう。
建物の非常階段らしき場所を登り、辺り全体が見渡せる場所に行く。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
何あれ…。
人の集まりの真ん中で人に何かが乗り移ったかのように、この世のものとは思えない唸り声を挙げている青年がいる。
ーーー白澤・岡目九目
この能力は白澤の万物の知識を持つスキルと同等だ。
これを使えば、敵の情報や弱点が分かるようになる。
「…っ、嘘でしょ、エラー?」
この稼業や業界に入って初めての出来事。
それは、大抵の情報が分かるはずなのに、何故だか反応しない。
チラッと、時計を見ればお父様との約束の時間が迫っている。
「…っ、一か八かやるしかないっ!!…っ、待ってあれはっ…。」
ちょ、凰喜さんじゃん。
なんでこんな場所に?
落下攻撃しようとしたけど一瞬ためらう。
もし、私がこのまま落下攻撃すれば被害は出なくなるも存在がバレてしまう。
だけど、見て見ぬフリをすればここにいる全員がなんらかの怪我を負う。
そうやって、選んでいても時間は過ぎていくだけで、
「危ないっ…。」
青年は凰喜さん目掛けて、突進し攻撃しようとしている。
その体から漏れ出ている黒い靄に嫌な予感がして、咄嗟に
ーーー能力スイッチ・絶対零度
妖力の手の入れ方は三種類ある。
一つは、DNAのような遺伝子的要因で能力が手に入る。
私の場合は白澤だ。
因みに、遺伝子的要因だと白澤などの動物系が多い。
二つ目は、神様や仏に祈り加護という形で能力を手に入れるか。
これは、超人系の能力が手に入る。
三つ目は、自然的なものと一時的に一体化する。
これはかなり危険な方法で、自然と一体化するには一度死の間際まで火・氷・風・雷・水などに耐えなければならない。
例えば、雷の場合は一度雷に撃たれるとか…。
因みに一人二個までの能力が手に入る。
ーーー絶対零度・白晶絶界
これは、戦闘範囲を定める能力でこの範囲外には私も敵も攻撃が出来ない。
落下攻撃から切り替え、まずは凰喜さんの救出だ。
まあ、この作業には慣れているから一瞬で終わるけど…。
「…っ、お前は…。」
彼を白晶絶界の範囲外に連れて行く。
「すぐ終わらせますから…。」
目の前にいる得体の知れない少年に向き直り、
ーーー白澤・氷瀑
この技は便利なことに白晶絶界で範囲指定した場所に、氷柱を落とすことが出来る。
もし、白晶絶界で範囲指定をしない場合は無差別に氷柱が落ちてくる。
私も味方も即ジ・エンドの技で、白晶絶界ありきの技だ。
そんな絶対零度の能力で最大攻撃を誇る、氷瀑で無傷だった場合、どうする?
嫌な考えが過ぎるも、範囲内に踏み込む。
「おい、どうなった。」
良かった、幸いなんかの回復とか使うようなものだと思ったから。
「取り憑かれていただけです。除霊はしましたが、記憶が無いので彼がやってしまったことに関しては、本人をまたあのような状態に追い込むので、言わないであげてください。」
取り憑かれているとはちょっと違うが、一般人である凰喜さんに言っても分からないだろう。
彼の中から靄を取り出す。
帰ったら、研究してみるか。
「意識は?」
「あります。今は眠っている状態です。」
「そうか。怪我は?」
「ありません。あなたは?」
「そうか、良かった。俺も無い。」
一件落着したように見えたが、そんな中とある一人が騒ぎ出した。
「総長、こいつは俺らの看板に泥を塗った“moment”の女と付き合っていたんですよ!」
「そうですよ!このまま落とし前はつけないつもりすか!?」
話を聞くとこの人達が属する“Athanasious”を襲撃したレディースの“moment”のメンバーの女の子と、今さっき取り憑かれて寝ている彼は恋人同士だったみたいだ。
だけど、敵対するチームとの恋愛なんて味方側からすれば裏切りに近い感覚だろう。
寝ている彼の体には所々痣がある。
もしかして彼は…いや、想像はやめよう。
そろそろ定例会議に行かなきゃ遅れる。
面倒ごとから逃げるように、そろりそろりと立ち去ろうとする。
「待て。」
後ろから腕を掴まれる。
掴んだのは凰喜さんで、
「礼がしたい。いつの日が予定空いている。」
「………は?」
一瞬で場が静まり、皆の脳がフリーズする。
その後、私以外の皆は、
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
「うるさ…。」
路地裏で表通りに響くぐらい、野太い声をあげた。
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
早く、逃げなきゃ…。
じゃないとっ…。
というか、なんであそこに〝あいつ〟が…。
狭くて迷路のように薄汚れた路地裏を走り抜ける。
そんな中、前からガタイの良い男の人が電話しながらやって来て、
「Athanasious(アタナシウス)のアジトが襲撃された!?分かった、今行く。」
あまりにも逃げるのに必死になっていた私は、その人がAthanasiousと言っていたのが分からなかった。
ただ、早く逃げたかった。
だから私は彼の頭上を飛び、体を捻って、着地した。
その時に相手の人の顔が見えて、一瞬だけ目が〝合ったような〟。
「「…っ。」」
お互いの吐息が聞こえたような気がした。
相手はさっきも言った通り、ガタイが良くて、顔立ちはこの世の人間と思えないぐらい凛々しかった。
目は意志の強さを感じるぐらい、鋭い。
そして、眉はハッキリしていてる。
今で言うと、武人顔とか凛烈顔とか?
だけど、どこか冷酷でどこか独裁的な何かを持っているような、そんな感じがした。
でも、今は彼に見惚れている場合じゃない。
逃げなきゃ。
地面に着地し、また地面を蹴って走る。
だから、私は聞こえなかった。
さっきのイケメンが
「……っ、やべぇな。墜ちた。」
『は!?総長どうしましたか!?』
「恋だ。」
『…………は…。』
「すぐそっちに行く。それまで粘れ。」
『は、はい。……聞き間違いだよな、流石に…。』
「っ!?…はぁ…はぁ…。」
あの日の夢を見て、目が覚めた。
私が暴走族を襲撃したとき、見てはいけないものを見た。
人でも生き物でも、生物ですらない…一気に脳がそれを見ただけで情報処理を拒みたくなるような感覚…。
「瑞姫お嬢様、朝から何やら魘(うな)されておりましたが大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。」
この人は私の身の回りのお世話をしてくれる、白沢(しらさわ)さんだ。
まぁ、この人の存在や私の呼び方からして私の家のことは、自分では言いたくないので察して。
「お嬢様、朝食のご用意が出来ております。」
「着替えてから来るね。」
「承知致しました。」
白沢さんが出て行ったのを確認すると、布団から起きて着替える。
私はまだ学生の身分だから通う学校の制服を着て、長い髪はおさげに瓶底眼鏡ーーーの姿。
「おはようございます、お父様。」
「あぁ。」
朝食を食べに自室から長い廊下を渡って、美味しそうな料理の前に座って食べる。
ちなみに、このお父様と呼ばれる人物は白鷹択十郎ーーー皆が想定している通り、私の実の父親だ。
そして、この白鷹家の当主だ。
名前からして七十代ぐらいの年よりと思われがちだが、バリバリの四十代である。
少し古臭い感じの人間で、頭が固く前時代的。
「今日は定例の会議がある。瑞姫も次期当主として出席するように。」
「はい、お父様。」
「それから、そんな恰好で来ることが無いように。」
「はい、お父様。」
機械のように短く答える。
ちなみにお父様は私のこのTHE・地味な姿があまり好んでいないみたいで、高校に入学するのと同時にこんな恰好をする私を一層毛嫌いするようになった。
まぁ、やめるつもりは無いのだけど…。
そんなことを考えていると、お父様はいつの間にか仕事に出かけていた。
「瑞姫お嬢様、あの任務の連絡が来ております。」
毎朝届くノルマのような任務の紙を持ってきた白沢さんから礼を言って受け取り、封を切る。
「今日は…あね。」
今日は最近学生の間で流行の心霊スポットの調査か…。
実はこの白鷹家、表向きは何かしらの企業を経営しているが(私は表の方にいることが少ないから詳しくないの)、実際は世間に蔓延る妖怪のようなものを退治している。
白鷹家以外にも妖怪を退治している団体や家庭はある。
政府非公認団体なので、表向きには活動は出来ず、依頼主からは多額の金額を支払って貰っているので、税務署に目を付けられることが無いように、お父様は表向きでは企業を経営している。
白鷹家には私以外の子供はいなくて、実質私が跡取りだ。
分家には沢山いると聞いたことはあるけど、今まで片手で数えるしか会ったことはない。
そんな次期当主の社長令嬢をしながら妖怪退治…。
この業界は非常にブラックだ。
学校に着いてまずすることは、その一。
「あの、そこ。私の席なんだけど?」
「あ?感じ悪。調子乗んなし、白鷹。」
「邪魔。」
朝から私の机にいる、スカート短めでシャツの襟は第三ボタンまで開けていてピアス金髪、と派手に校則違反の模範生のように振る舞う不良少女達三人を自分の席から退かすことから始まる。
入学してから最初の席替えで、不良少女のうち一人が私の席の隣になってしまい、残り二人が私の席を占領するのだ。
そんな中、廊下から突如として黄色い歓声が響き渡り、「凰喜先輩っ!!!!」と声が聞こえた。
不良少女三人はどうやら凰喜先輩のファンだったらしく、すぐに私の席から離れて廊下から出た。
「凰喜さん、見つけられましたか?」
「何何ー?凰喜さんは誰か探しているのー?」
「なんか、凰喜さんが一目惚れしたんだってー。」
「えっ!?嘘っ…もしかして、私のこと!?」
「チッ…いなかったか…。」
「もしかしたら、学生とかじゃなくて社会人とかないですかね?」
舎弟のような人がそう言うが、凰喜さんはまるでこの学校にいるのが確定しているかのようなことを言った。
「いや、この学校の学生証が落ちていた。」
「どんな子ですか!?」
「これだ。」
彼が持っている写真付きの学生証をチラッと見れば、その写真には私のおさげに瓶底メガネ姿じゃない私が映っていた。
え、待って…どうして…。
そこでハッとした。
そういえば、学生証の写真は入学前に撮らないとで…撮影したのは白沢さんで、場所は自宅だった。
だから、瓶底メガネにおさげ姿じゃない私が写真になっているわけだ!
幸い、姿形が違ったり、白鷹さんはこの学校にたくさんいて、私の下の名前は認知して貰えて無いみたいだから、皆口を揃えて…
「「「知らないです。」」」
と言った。
ふぅ、目立つことにならなくて良かった…。
次からは、学生証の写真を瓶底メガネにおさげ姿にしとかないといけない。
学生証が無くなって学割が使えなくなるのは痛いが、仕方ない。
来年までの辛抱だ。
そうやって安堵しきっていると、舎弟が
「その人の学生証が凰喜さんの元にあるってことは、学生証を持っていない人を探せばいいんですよね?そしたら、仮に変装みたいなことしてたら見つけ出せますよね。」
「そうだな。よし、ここにいる全員学生証を出せ。」
あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!舎弟、ちょっ…何やってくれんの!?
そんな王子様がガラスの持ち主のシンデレラを探すようなことをさ!
しかも、後ろになんか凄いガタイの良い男の人がいるんだけど!?
なんとかして、解決策を考えようとするも私の順番がやって来て、提示を怖い顔で促された。
「持ってないです…。」
そう言った瞬間に周りの人が振り向き始めた。
ちょっ、ヤバいって向こうから凰喜さんらしき人がやってくるんだけど…!?
今更だけど、あの日路地裏ですれ違ったイケメンでは!?
「持ってない?名前は?」
ちょ、直接尋問!?
うわ、女子の視線が…。
「はい、白鷹です。」
「白鷹…。この学生証の名字も白鷹だな。」
………本人ですから、なんて言えそうにないな。
「はい、この学校に白鷹はたくさんいますから。」
「下の名前は?」
「凛です。」
「白鷹瑞姫じゃないのか。」
「はい。」
入学してから不登校である白鷹凛さんの名前を使う。
皆顔を覚えてなさそうだし、使っちゃって大丈夫だろう。
今だけだから!
心の中で謝りながらも尋問は終わり、自分の席に着く。
後はいつも通り平穏に過ぎて、任務も済ました。
そして、平穏じゃなくなるお父様に来いと圧をかけられた定例会議を済ますだけで終わりだ。
時間を潰そうと散歩でもしていると、
「……っ!?」
不穏な気配がする。
仕方がない。
人目の付かない場所で能力を解放する。
ーーー能力解放・白澤。
私達のような妖怪退治をする人には生まれつき、妖怪と同じような力ーー妖力を持って生まれてくる。
妖力には様々な属性があるものの、私の場合は一つは動物系・白澤だ。
白澤は瑞獣と呼ばれて、博識で厄災から守る妖怪であると言われる。
一度能力を解放すれば白澤の姿になる。
白澤は九つの目に角が四本あって、白い毛並の牛のような姿だ。
もちろん、白澤の能力もそのまま使える。
白鷹家は代々白澤の能力が継承されるので、遺伝子のおかげだ。
ーーー白澤・森羅万象
この能力を使えば聴覚や視覚が動物並になり、劇的に上がる。
主に探索や調査に便利。
「あっちだ。」
どこからか、不穏な気配を感じ取って、路地裏へ飛び込んでいく。
そして、迷路みたいな場所を駆け抜けていけば、
「ここは…。」
人が集まっている所に抜けた。
ふと、自分がこの前襲撃した場所だということを思い出した。
とりあえず、落下攻撃が出来るように建物の上に行こう。
建物の非常階段らしき場所を登り、辺り全体が見渡せる場所に行く。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
何あれ…。
人の集まりの真ん中で人に何かが乗り移ったかのように、この世のものとは思えない唸り声を挙げている青年がいる。
ーーー白澤・岡目九目
この能力は白澤の万物の知識を持つスキルと同等だ。
これを使えば、敵の情報や弱点が分かるようになる。
「…っ、嘘でしょ、エラー?」
この稼業や業界に入って初めての出来事。
それは、大抵の情報が分かるはずなのに、何故だか反応しない。
チラッと、時計を見ればお父様との約束の時間が迫っている。
「…っ、一か八かやるしかないっ!!…っ、待ってあれはっ…。」
ちょ、凰喜さんじゃん。
なんでこんな場所に?
落下攻撃しようとしたけど一瞬ためらう。
もし、私がこのまま落下攻撃すれば被害は出なくなるも存在がバレてしまう。
だけど、見て見ぬフリをすればここにいる全員がなんらかの怪我を負う。
そうやって、選んでいても時間は過ぎていくだけで、
「危ないっ…。」
青年は凰喜さん目掛けて、突進し攻撃しようとしている。
その体から漏れ出ている黒い靄に嫌な予感がして、咄嗟に
ーーー能力スイッチ・絶対零度
妖力の手の入れ方は三種類ある。
一つは、DNAのような遺伝子的要因で能力が手に入る。
私の場合は白澤だ。
因みに、遺伝子的要因だと白澤などの動物系が多い。
二つ目は、神様や仏に祈り加護という形で能力を手に入れるか。
これは、超人系の能力が手に入る。
三つ目は、自然的なものと一時的に一体化する。
これはかなり危険な方法で、自然と一体化するには一度死の間際まで火・氷・風・雷・水などに耐えなければならない。
例えば、雷の場合は一度雷に撃たれるとか…。
因みに一人二個までの能力が手に入る。
ーーー絶対零度・白晶絶界
これは、戦闘範囲を定める能力でこの範囲外には私も敵も攻撃が出来ない。
落下攻撃から切り替え、まずは凰喜さんの救出だ。
まあ、この作業には慣れているから一瞬で終わるけど…。
「…っ、お前は…。」
彼を白晶絶界の範囲外に連れて行く。
「すぐ終わらせますから…。」
目の前にいる得体の知れない少年に向き直り、
ーーー白澤・氷瀑
この技は便利なことに白晶絶界で範囲指定した場所に、氷柱を落とすことが出来る。
もし、白晶絶界で範囲指定をしない場合は無差別に氷柱が落ちてくる。
私も味方も即ジ・エンドの技で、白晶絶界ありきの技だ。
そんな絶対零度の能力で最大攻撃を誇る、氷瀑で無傷だった場合、どうする?
嫌な考えが過ぎるも、範囲内に踏み込む。
「おい、どうなった。」
良かった、幸いなんかの回復とか使うようなものだと思ったから。
「取り憑かれていただけです。除霊はしましたが、記憶が無いので彼がやってしまったことに関しては、本人をまたあのような状態に追い込むので、言わないであげてください。」
取り憑かれているとはちょっと違うが、一般人である凰喜さんに言っても分からないだろう。
彼の中から靄を取り出す。
帰ったら、研究してみるか。
「意識は?」
「あります。今は眠っている状態です。」
「そうか。怪我は?」
「ありません。あなたは?」
「そうか、良かった。俺も無い。」
一件落着したように見えたが、そんな中とある一人が騒ぎ出した。
「総長、こいつは俺らの看板に泥を塗った“moment”の女と付き合っていたんですよ!」
「そうですよ!このまま落とし前はつけないつもりすか!?」
話を聞くとこの人達が属する“Athanasious”を襲撃したレディースの“moment”のメンバーの女の子と、今さっき取り憑かれて寝ている彼は恋人同士だったみたいだ。
だけど、敵対するチームとの恋愛なんて味方側からすれば裏切りに近い感覚だろう。
寝ている彼の体には所々痣がある。
もしかして彼は…いや、想像はやめよう。
そろそろ定例会議に行かなきゃ遅れる。
面倒ごとから逃げるように、そろりそろりと立ち去ろうとする。
「待て。」
後ろから腕を掴まれる。
掴んだのは凰喜さんで、
「礼がしたい。いつの日が予定空いている。」
「………は?」
一瞬で場が静まり、皆の脳がフリーズする。
その後、私以外の皆は、
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
「うるさ…。」
路地裏で表通りに響くぐらい、野太い声をあげた。
