溺愛銃弾 〜メルティ・your・バレット~

それから、なんでもない寒い日が続いて。

雪に慣れないこの辺りでも、週末は積もる予報をテレビかなにかで聞き流した夜。午後から出かけて帰ってきた陶史郎さんは、陶史郎さんじゃなかった。ちがう顔に見えた。

「一花が風邪引かないようにあったかくして、樹も着替えておいで」

「・・・どこか行く、の?」

もう十時を回ってるのに。背中がざわっとする。

「もうこの家に用はないからね、出て行くんだよ」

薄く微笑んだ陶史郎さんの唇がうごいて、声になって、『出て行く』が耳に残る。自分が立ってるのかもあやふやで、頭の先から力が抜けそうになる。

「・・・ど、・・・して・・・?」

「僕がヤクザを辞めるから」

息を忘れた。いつか、と思ってた。今だと思わなかった。お義母さんも昼間はなにも言ってなかった。それより。

「たま・・・」

「玉置は俺の監視役ってだけでね、関係ない」

強く腰を引き寄せられて胸元に閉じ込められる。

「お前は誰の?」

「・・・陶史郎さん」

「忘れたら殺すよ」

甘い囁きが毒のように、考えることを何もかも痺れさせた。

陶史郎さんからもらった物と、沢崎の父が遺したもの、一花のために置いていけないものを詰め込んで。陶史郎さんの背中をただ追いかけた。

真っ暗い闇しか憶えてなかった。