こんな時、手紙の一つでも書けたなら、
旦那様やミヤさんに手紙を残せるのに。

静かに少ない荷物を纏めると、お屋敷を
出た私は、入り口でもう二度と来る事のないここへ感謝の気持ちを込めて深く
頭を下げた。

‥‥‥圭吾さん

私のような者を一時でも愛してくださり
もう思い残す事はなくなりました。

私に生きる意味を下さり、一人の人として接してくださった事、一生忘れずに
生きて参ります。


『鈴子!!!!』

ドクン

愛しい主人の声に振り返ると、息を切らした旦那様が泣きそうな表情で私を
見つめていた。

『‥‥夢は終わったのだな‥‥。
 残念だな‥‥お前だけは‥ッ
 鈴子は私のそばを離れないと‥』

本当なら今すぐにでもその腕の中に
飛び込みたい‥‥

でも‥‥私には出来ない‥‥‥

旦那様‥‥どうか‥お元気で‥‥。

旦那様に笑顔を向け頭を下げると
旦那様が口元に手を当てたあと、
私に素敵な笑顔を向けてくださった。

結ばれる事のない想い‥‥
それを痛いほど分かっているから、
二人とも一瞬の幸せな夢を見れた