私のような身分の下女が尊い旦那様の
お名前など口にしたら罰が当たるに
決まっている‥‥

でも‥その旦那様が望むならば、
夢を見せて頂いた代わりにと、愛しい
人の腕の中で涙を流して口を開いた


「‥‥‥‥圭吾‥さ‥圭吾さん‥ッ。」

多分もう二度とこの方のお名前を口に
する事はないという思いを噛み締め、
そう呼んだ‥‥

『‥‥ありがとう‥この日をずっと
 忘れないよ。』


旦那様のお気持ちなど私が知ろうとしてはならないけれど、更に抱き締める腕に
力が込められたのだけは分かった‥‥

名のある財閥に生まれ、これ以上望むものなどこの人にはないと思うのに、
私が知る由もない何かを抱えているの
ではと心が苦しくなった。


「おやすみなさいませ。」

『おやすみ。』



一時の夢のような短い時間に、屋敷に
戻った私はその日お勤めを終えてもなかなか寝付けず眠れない夜を過ごした私は、その夢が覚める事になるとは
思っても見なかった‥‥