「‥も‥申し訳‥ございません。
 お許しください‥‥。」

両手を合わせて腰を折るように深く
頭を下げると、視界の端に黒い革靴が見えて青ざめた

‥‥旦那様‥‥だと分かったからだ。


『ハル、何をされてるんです?』

久しぶりに聞いた旦那様の声一つに、
胸の奥がギュッと締め付けられてしまう


『圭吾さん!鈴子さんが私のお着物
 に水をかけたんですよ!!ほら!』

『水?‥‥まだ水で仕事をしてるのか。
 釜戸でお湯を沸かすよう伝えて
 おいたのだが聞いていないのか?』


えっ?


『ッ‥け、圭吾さんどういう事ですの?
 そんな勝手をしたら‥』

『勝手?‥家の為に手があかぎれるまで
 働く者たちへの労いをするのが当主
 の勤めだ。‥‥これからはお湯を
 沸かして洗濯をしなさい。他の人
 にも窓拭きや床掃除の際は冬場は
 お湯を使うようにしてるから。』


そう‥なんだ‥‥。
私だけ知らなかったんだ‥‥。
鈴子さんをチラッと見ると、あからさまに目を逸らされてしまった。


「ありがとうございます‥旦那様。」


私だけの為ではないが、あの日ここで
旦那様が私に叶えると言った事が嬉しくて感謝の気持ちを伝えたかった。