心の音-ココロノオト-


自覚した恋心に、歯止めが効かなくなった私は、なんとなく茜部先輩を避けるようになった。

ドキドキして、一緒にいると変なこと言いそうで、嫌われることが怖かった。


避けるといっても、委員会をさぼるわけにいかず、少し物理的に距離を置いてみたり、図書室で本を借りて教室で読んだり、そんな感じ。


アタックするなんて、夢のまた夢。

私みたいな、ただの後輩が、恐れ多い。

ただ茜部先輩を遠くから見ることができればそれでいい。

そう思っていた。


1番の難点は、水曜日の帰り道だった。

以前より、横を歩く茜部先輩との距離が近い気がする。

ああ、私の心音が、聴こえてしまうのでは?


ふと、茜部先輩が小さく溜め息をついた。

何した?

私何した?

内心穏やかではなかった。


家に着いて、先輩が身を翻す。

なかなか帰ろうとせず、何か言いたげに私を見つめてきた。

目つきは悪いけど。


「な…何でしょうか」


おずおずと尋ねた。


「最近何なの」

「え…」

「俺のこと避けてね?」

「いえそんなことは」


あります。


なんとなく、茜部先輩の表情が不機嫌になった気がした。

なんだよぅ、怖いよぅ。


「…おつかれ」


ただそう言って帰ってしまった。


「おつかれさまです」


茜部先輩の背中に伝えた。