招き入れられたジェノスはわたしが居る事に気付くと歓談中に申し訳ありません、とエドワードに小さく謝った。
「いいや。お前が気にすることはないさ。歓談くらい『いつでも』できるのだから気にするなーーそうだろう、リリー?」
「……ええ。エドワード殿下の言う通りにございます」
話は終わっていないからなとエドワードに釘を刺されたことでギクリと身体が強張りそうになる。しかしそうなれば思慮深いジェノスが不審に思うであろうから、引き攣りそうになる笑顔をなんとか形にして、初対面であるジェノスと挨拶を交わす。
今年で七歳になる彼の線は細いながらも、エリザベス王妃の面影を色濃く移し、エドワードとはまた種類の違う整った顔立ちは此方がたじろぎそうになる程の迫力だ。しかしその当人は柔らかく微笑むと握手も求め、人懐こい表情に心が緩む。
(ああ、そういえば彼は天然の人たらしだと言われていたのだった……)
殆ど関わり合いのなかったからこそ、ぼんやりとジェノスのことを思い出す。
人懐こくお優しい王子様。小さな頃の彼はそう言われてきた。
ニコニコと春の日差しのように微笑むジェノスだが、彼は三十になる手前で王位に就くと今まで不正を働いていた貴族達をバッサリと処断した。
氷柱のように冷ややかに容赦なく処断した苛烈さはまさしくエリザベス王妃のような鮮烈さ。王になって迅速に動いたことで民からの人気は高く、そして不正に対し最初の内に厳しい姿勢を見せたことで、ジェノスを前にすると皆襟首を正すーー彼は穏やかにそれを眺めていたのだ。
凄まじい政治手腕を持つジェノスを知っているのに、目の前に居る彼の笑う顔が愛らしくて、つられたようにわたしも笑い返すと横に居たエドワードから強い視線を感じた。
けれど振り返って彼を見ようとすれば、その視線の強さは霧散し、わたしの気のせいだったのではないかと思う程に自然な顔で彼は静かに微笑んでいた。
挨拶を終えたわたしは兄弟間の話し合いに何時迄も居てはさすがに邪魔だろうとやんわりと退出の意を申し出る。
エドワードもそれを了承し、王族二人に深いお辞儀をした後に廊下に戻れば、張り詰めていた緊張が少しだけ和らぐ。
けれどわたしはこの時、どうして次期国王であるジェノスが直接エドワードを訪ねてきたのかーーその真意をもっと深く考えるべきだった。
