タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?



「リリー・スペンサー。お前はこの僕から離れることを望んでいるのだろう?」
「…………っ」
「であれば、やはり罰は決まっておる」


 うっそりと微笑む彼に言いようのない嫌な予感がして、本能的な恐ろしさからかざわりと全身に鳥肌が立つ。
 彼の提案を聞く前に逃げなければならない、最後まで聞いてはならない、と思っているのに足が立ちすくみ、ただ彼の言葉を待つばかりの自分に歯噛みする。


 無言で対峙するわたしに彼は目を細め、ゆっくりと頬を撫でる。その手の冷たさに驚いて肩を跳ね上げさせるとエドワードはそれを拒絶と受け取ったようで、苛立たしげにわたしの顎に手を掛けた。


「……殿下はわたしに何を望もうと言うのです?」
「望み? お前は僕と対等になった気で居るのか?」
「いいえ。そのような恐れ多き自惚れなぞ抱いておりません」
「その言葉本心であろうな?」
「……はい」
「では僕の出す如何な命令でも従うと……?」
「勿論にございます」


 冷え切った眼差しで此方を見やる彼の瞳の奥底に残忍さが潜み、わたしを甚振る愉悦にギラリと輝く。

(まるで猫に虐められるネズミのようだわ)

 エドワードがその気になれば文字通りわたしを潰すことなんか容易いことだろう。王族の不興を買ったとなると社交界からは爪弾きにされ、それによりスペンサー家が手掛けている領地経営や商売等にも影響が出るのは間違いない。

 彼だってそのことを理解しているからこそ、自分の言動で他の貴族に影響を与えないように常日頃から慎重な姿勢をみせている。
 だというのに、こうも威圧的な態度をしてみせるのは、わたしが彼に従おうとしなかった腹いせなのだろうか。


「ーーならば、僕の婚約者になれ」
「……え?」
「聞こえなかったか? お前が僕の婚約者になれ、と言ったのだ」


 いっそのこと聞き間違いであって欲しかったのに彼は満足そうに口の端を上げた。
 驚愕に目を見開くわたしを冷笑する彼の表情はとても婚約者に向けるものではない。


「なぜでしょうか?」
「理由はいくつかあるが、別にお前にとってはどうでも良いことだろう」


 エドワードの投げやりな言葉に今世でもわたしはまたなにかを間違えたのだと暗い気持ちに打ちひしがれそうになった。