「沈黙がお前の答えか。であれば容赦はせぬ」
「殿下……?」
「リリー。お前は僕から本当に逃げたいと思うのならば、擦り寄るべきだったのだ。他の令嬢と同じく僕に擦り寄って媚の一つでも売っておけば、まだ逃げる余地があったというものの……」
いつの間にかエドワードにガシリと掴まれた肩は今や彼の指が食い込まんばかりの勢いで迫られ、爛々と輝く彼の紫水晶の瞳が怪しく光る。
「殿下、痛うございます」
距離を取ろうとあえて非難すれば肩を掴む力がより強くなり、わたしは痛みに顔を顰めた。
「逃げようとするからであろう」
不遜な言い方で鼻で笑う彼に鬱屈とした感情がジリジリと焦げつき、訳の分からない苛立ちへと導火する。
重なった視線に瞬きすらせずにじっと見つめれば、彼は漸く力を抜く。しかし、彼の手は未だわたしの肩に置かれており、逃げようとすれば再度掴まれることは明白だった。
「…………」
「お前は笑わぬな」
「こんなことをされて笑うことなど出来ませぬ」
「違う。最初からだ。どの女達も僕が声を掛けるだけで顔を赤らめ、そして微笑うというのに、どうしてお前は僕に笑いかけぬ?」
「……愛想の良い女が好みでしたら、どうか他の方を『婚約者候補』になさいまし」
王族であるエドワードを相手に、歯向かうような言い方をしてしまったことに内心自分でも驚いた。
ましてわたしは既に父に見切りを付けられたも同然に王宮に売り渡された身。ここで彼へ不興を買えば、ますます自分の立場を窮地に追いやられることだろう。
そんなことくらい頭では理解しているーーが、感情が追いつかない。
不貞腐れたまま、ちっとも可愛くない対応をしてしまったことに内心嫌気を差し、同時にどうして上手くやれないのだろうかと事を荒立ててしまったことを反省する。
感情に流されるまま思いを吐露したことで憤然たる勢いは引っ込み、王族に楯突いた馬鹿な自分に戦慄く。
「……生意気だ」
「……申し訳ありません」
もっともな言い分に平伏し、項垂れようとするわたしを彼は短い言葉で制す。
「反省したフリはもういい。それよりもお前に罰を与えよう」
「罰、にございますか?」
にんまりと口の端を吊り上げて嗤う彼に嫌な予感がしてならない。
それでも聞き返したのは、彼の決定事項に逆らえないだろうと直感したからなのかもしれない。
