「リリー。キミの意思も聞かずに勝手に婚約者候補に仕立て上げたことは謝ろう。けれど、このように強引な手を使わないとキミは僕を見る気なんてなかったのだろう?」
「いいえ、殿下。わたしはそのようなことは……」
「なれど僕が話し掛けた最初の時からキミは僕を避けようとしていたじゃないか……! 僕に非があるのならば教えて欲しい。一体僕の何が駄目だったのだ!」
「殿下に非などありませぬ」
「……では何故避ける? 何故僕とは友達にもなれない?」
荒ぶる彼に何も答えられない不誠実な自分が嫌で仕方がない。
真っ直ぐに感情をぶつける彼の姿が眩しく、そして彼を信じてあげられない自分の弱さが醜かった。
(だってわたしは殿下に『真実』を話したこともあったのに……)
幾度も続くタイムリープに嫌気が差して『真実』を伝えた時があった。
しかし彼はそれを信じるどころか、わたしの頭がおかしくなったと幽閉したのだ。
二度と日の目を見ることが出来ない暗くて寒い牢獄に囚われて、衣食住全てを彼に支配される日々。
手足は鎖に繋がれ、食事は彼が持ってくるのをじっと待つしか出来ない惨めな一生。彼の好む服を着せられ、好き勝手に身体を蹂躙される悍ましさ。屈辱と羞恥で打ち震える人生なんてもう二度と御免だ。
「……非があるとしたらわたしの弱さにございましょう」
「…………」
「殿下は眉目秀麗で勉学も大変優秀だとお聞きしております。そんな殿下の横に並び立てる自信が恐れながらわたしにはございません」
「……自信ならこれから付ければ良いじゃないか」
ポツリと不貞腐れたように呟く彼の姿に内心苦笑しながら、やんわりと首を横に振る。
「茶会で声を掛けて頂いた時、確かに嬉しゅうございました。しかし後ろに控える御令嬢の方々の厳しい視線を恐れる程度の器の小さい人間に将来殿下を支えられましょうか?」
「僕は別に支えを欲してなんかいない。支えなんかなくともちゃんと自分の足で立って見せる」
「ええ。殿下はそのように強いでしょう。だからこそわたしは引け目を感じるのです」
「……お前は結局僕を褒めながらもそれを口上にして逃げたいだけではないのか?」
真実を突きつけられ、自分自身に苦笑を洩らす。
暴かれた自分の弱さにわたしは瞠目し、そしてそのまま彼の審判を待つことにした。
