タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?



 エドワードに腕を引っ張られた状態のまま、わたしは彼の私室に招き入れられるた。
 豪奢な造りではあるが、彼は華美過ぎるものを厭う性格ゆえか、生活に必要な家具しか置かれておらず、シンプルと言っては聞こえが良いがどこか広い部屋を持て余しているような印象だ。
 しかしそのような部屋でも、勿論座る為の長椅子はある。だというのに彼はわたしを部屋に入れると、扉の前から移動する気配はなく、そのままわたしと向かい合う。


 二人きりの空間に彼はガチャリとわざとらしく大きな音を立てて廊下に繋がる唯一の重厚な扉を施錠して見せたのは逃げ場はないぞとわたしに仄めかす為だからだろう。
 息が詰まりそうになる程の静寂が支配した空間に、黙ってわたしを観察し、やがて諦めたように溜息を吐いた。


「……リリー・スペンサー伯爵令嬢」
「……はい」
「僕と顔を合わせたのはこの前の茶会が最初か?」
「ええ、その通りにございます」


 わたしの答えが気に食わなかったのか彼は顔を顰め、何かを考えるかのように顎に手を掛けた。


「…………」
「殿下、恐れながら質問をしてもよろしいでしょうか?」
「許そう」
「その、殿下はお茶会よりも前にわたしを見たことはあったのでしょうか?」
「いいや、ない。ないからこそ何故お前が僕を避けようとしているのか分からない」
 

 分かりきった答えをあえて質問したのは、一応の答えを知りたかったからだ。
 彼と出会うのはお茶会以降ーーそれはこのタイムリープにおいての絶対の不文律。
 それは逆に云えば、お茶会以降わたしがどれだけエドワードを避けようとも絶対に彼と出会い、彼の婚約者になることも逃れることの出来ない絶対の不文律なのだ。


(呪いみたいな運命ね)

 どうせミアに恋する癖に何故わたしなんかと婚約を結んでしまうのか。彼からしても呪いみたいな縁を結ばれて、ほとほと迷惑なことだろう。
 同情めいた気持ちで彼を見つめ返せば、ますますエドワードの眉間の皺が深まる。

「教えてくれ、リリー。僕はキミに何かしてしまったか?」
「いいえ。何もされておりません」
「だったら何故僕を初めから除外しようとする?」


 彼の詰問は答えにくく、切羽詰まった彼の表情を見るとその場しのぎの答えを許さない気でいるーーしかしわたしはその表情にある疑念を抱くのだった。