「……けれど、お姉様は暫く屋敷に戻らないとお父様から聞きましたがゆえに、わたくし寂しく思いますの」
「ミア……」
まずい。これはわたしの後を着いてくる気だ。
きっとミアの目的はわたしを踏み台にして、エドワード殿下との仲を深めることーー現に彼女は意味深に彼の顔をチラリと見て、困ったように眉根を下げて項垂れていた。
(貴女がわたしと離れて寂しく思う訳がないじゃない)
そんな殊勝な気持ちを彼女がわたしに抱いているとは思えない。
恐らく先程わたしを誘ったのも八つ当たりを向ける矛先がなくなったことへの苛立たしさと、自身が王城に滞在を許されなかったことに対する不満を直接わたしにぶつけたかったからだろう。
だからこそ、彼女と話したくはなかったのだけれども――下手にわたしが口を挟めばミアの心は頑なとなり、事態はより悪い方に進むことは容易く想像出来る。
(……いいわ。たとえミアが着いてきたとしても二人が盛り上がった頃合を見計らって、わたしが抜け出せば済む話だもの。それで良いじゃない)
むしろこっそりと立ち去ることが出来るのならば、好都合というもの。込み上げる苦い感情を見なかったフリをして殿下の判断を待てば、彼は予想外のことを口にする。
「リリーは僕の婚約者候補として城に滞在することになったものだから、妹のキミには寂しい思いをさせることになってしまうね」
彼の発言により、ざわりと周囲がどよめく。
王家の人間の言葉は常に注目されているし、彼だってそのことを重々承知している筈だ。
今の話を聞いた何人かの中には使用人だけでなく、貴族の者も確かに混じって居た。きっとその者達が中心となって今の話はあっという間に社交会に広められることだろう。
(なんで、こんな事に……)
そもそもわたしが城に残るのは名目上、エドワードの『友達』としてだ。
候補と云えど『婚約者』の肩書きが付いては、城に残る意味合いが全く違うものとなる。
呆然とエドワードを見れば、輝かんばかりの微笑を向けられ、そしてそのまま腕を引っ張られて引き寄せられる。
それは周囲に自分達の仲を示す為のパフォーマンスでしかないと分かっているのに、急激に近くなった距離は心臓に悪い。
――恐ろしいのはその光景をミアが無感動な瞳で黙って見ていたことだった。
