タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?



(嗚呼、また失敗したのね)


 鳥のさえずり声が聞こえ、ゆるゆると睫毛を震わせる。
 一番最初に目に入ったのはいかにも子供が好きそうな薄いピンクにレースがふんだんに使われた天蓋付きのベッド。それを見ると反射的にげんなりとした気持ちになるのは、忌々しくなる程に何度も繰り返す人生に疲れているからなのか。


(なんで子供の時からやり直さないといけないのかしら?)


 戻るのは決まって十歳の時――エドワード殿下と初めてお会いするキッカケとなったお茶会の直前。そして人生が巻き戻るごとに何故かわたしは彼から不自然なほどに執着される。

 だけどその気持ちは恋ではないことは既に知っている。
 だって彼が本当に愛しているのはわたしの妹。
 それを痛いくらいに思い知っているからこそ、わたしは彼に心を開くことがなかった。


(どうせこの先も人生を繰り返さなければいけないのなら、無駄に傷付くことくらい避けたいもの)

 
 天井に手をかざせば、小さく頼りない掌に戻ったことをより実感し、『子供の姿』に似つかわしくない陰鬱で重たい溜息を吐き出したくなる。
 すっかり小さくなった自分の手をまじまじと見つめながら、また愚かな人生を繰り返さなければならない憂鬱さに絶望感が増す。
 

(楽になれたら良いのに……)


 何度繰り返しても終わりの見えないタイムリープに疲れた。
 だから楽になりたいとナイフで心臓を突き刺したり、毒を飲み干した時もあったけれど、そんなことをしても結局わたしは十歳の自分の姿に戻るだけで、今のところはなんの成果もなく、ただ痛いだけで、全て無駄に終わってしまう虚しさに心が擦り切れてしまいそうだった。


(――あの方の邪魔さえなければ、わたしの人生は少しはマシになるのかしら?)


 ふと脳裏に過ったのは自分の婚約者だった彼の姿。

 もしかすると彼との婚約を結ばなければ、何度かは何度かは死なずに済んだのかもしれない。
 それを確信する出来事を今まで何度も経験してきたからこそ、彼を徹底的に避けたし、婚約者にならないように部屋に引き篭もったことだってある。
 けれど、どう彼と関わらないようにしようにも、何故だかわたしは彼の婚約者になるし、彼に恋する妹にはひどく恨まれる。





「……今度こそ、今度こそ上手くやってやるわ!」

 妄執のようにわたしが望んでいるのは天寿の全う――ただそれだけのこと。
 無事に天寿を終えても、またタイムリープを繰り返す結果になったとしても、せめてたった一回で良いから人並みの幸せを得たいと願ったのだ。