今日は、近道して帰ろうか

それから、つつがなく式は進み、あっという間に下校の時間。



そして、私の今日の一大イベントの時間なのだ。

両親と椿の家族には、それとなく内容を伝えて、先に帰ってもらうよう事前にお願いしていた。



「ハナ、椿くんいた?」

「ううん。全然見つからないよ」

「もしかしたら、女子達に囲まれてるかもねぇ」

「もしかしたらじゃなくて、絶対それだよ」

「あ、いた!ほらあそこ!やっぱり女子に囲まれてる!!」



楓の指さす方を見ると、女子達による長蛇の列のその最奥に、椿らしき人影が見えた。



「長蛇の列できてるじゃん」

「最後の最後までモテてるねぇ」



流石だわ、なんて感心してる場合じゃない。



「楓、私も行ってくる!」

「そうね、ハナから迎えに行ってきてあげな」

「....そ、それで、楓。あのね」



同じ県内にいるとはいえ、高校生として楓に会えるのも今日が最後だ。



「私と、友達になってくれて、ありがとう」

「ちょ、急に何よ」

「楓のおかげで、私の高校生活、最高に楽しかったよ」



私の言葉に、楓の瞳が僅かに潤んだ気がした。



「卒業しても、たくさん遊びたいし、ずっと仲良くしてほしい!」

「当たり前だよ。私の方こそ......もうハナ、泣かせないでっ」



「それから......っ」

それからね、楓。



「楓には、下の名前で呼ばれても嫌じゃないよ」



ずっと、伝えようと思っていた。

入学式の日、私のちょっとした機微を見逃さなかった楓の優しさに、すごく感謝していたから。


私の言葉に楓は、驚いたような顔をして、目を丸くした。

それから、「ううん」と首を振る。



「私は変わらずハナって呼ぶよ。ハナが結婚してハナじゃなくなるまで」



「なにそれっ」

「ハナのこと、ハナって呼んでるの、私だけでしょっ」



そう言って笑った楓に、私はなぜか泣きそうになった。



「ほら、早く行っておいで!ちゃんと全部伝えなよ!!」



ぽん、と私の背中を押す楓の優しい手のひらに、何度救われたことだろう。



「ありがとう........っ」



楓に手を振り、私は走り出す。

椿にも、伝えなきゃ。

今日は、最後の遠回りだ。