「だってさ、椿くんだけじゃん。
ハナが自分のこと下の名前で呼ぶの許してるの」
他の男子とも壁作ってるし、私にですら下の名前で呼ばれるの抵抗ありそうだし、と続ける楓の言葉で、出会った日のことを思い出す。
高校に入学して最初のクラスで、前の席だった楓が、振り返って私に自己紹介してくれた。
『私、橋本 楓(ハシモト カエデ)』
『私は、花野井 牡丹(ハナノイ ボタン)』
『じゃあ、ぼたーーー.....、ハナって呼んでいい?』
『え、あ、うんっ』
『じゃあ、私のことは、楓で!』
そっか、あの時、楓は気づいてたんだ。
小学生の時に男子に言われた、
『お前、ぼーっとしてるからぼーちゃんな』
『ぼけーっとしてっと鼻水垂れてくるぞ、ぼーちゃん』
あのアニメが嫌だったんじゃない。
ただ、意地悪として、悪意を持って、わざとからかおうとして、向けられたその言葉が酷く嫌で。
言われる度に、すごく自分の名前が嫌に感じた。
その時、
『牡丹って、花の王様なんだってよ』
隣に越してきたばかりの椿が、そう言って庇ってくれて。
『綺麗な花じゃん。しかも王様だぞ?堂々としとけよな』
そう言った椿の言葉に、私はすごく救われたんだ。
その後、女みたいな名前と椿はからかわれてたけど、全然気にしてなくて、かっこいいとも思った。
椿に呼ばれる名前だけは、嫌じゃなかった。



