それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう


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 最初はまずロランの仕事について知るところから始めたミレッラは、得意の記憶力を活かして順調に仕事に慣れていった。
 もともと事務仕事が得意なのも幸いしたのだろう。しかも領地経営について実践的に学んでいた時期もあったので、ロランの担当する地方財政とは相性がよかった。
 全くの無知から始めなければならない仕事ではなかったために、まだひと月ほどしか経っていないものの早くも馴染むことができている。
 そしてもう一つ。直属の上司であるロランが『鬼』であるおかげで、あるいはそのせいで、財務省は他省と比べて職員同士の結束力が高い。
 最初こそ女性だから侮られるのではないかと不安にも思ったが、今ではもうそんな不安など跡形もなく、なんなら年配の役職付きの方々にロランの目がないところでお菓子をもらうほどの仲になったくらいだ。

(まるでロランが共通の敵みたいなんだもの。ロランには申し訳ないけど、ちょっとおもしろいわ)

 社会的には地位もあり、偉い人たちであるのは間違いないのに、ミレッラを見つけてロランがいないことを確認し、それから嬉しそうに「これ食べるかい」とお菓子を渡してくる姿は完全に近所の親切なおじさんである。