それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 ミレッラはそっと執務室から出ると、近くにいた年配の男性に声を掛けた。

「少しよろしいでしょうか? 皆さんのこれは……副長官に用があってここにいるんですか?」
「そうだが。君は?」
「ええっと、一時的に副長官の補佐官として働くことになった者なのですが、今日が初日でして……」
「なんだって?」

 彼から聞いていた役職名を答えたら、思いのほか大きな声が返ってきてびくつく。
 彼の声に反応した他の職員も、興味津々にミレッラへ注目した。

「おい、声をあげてどうしたのかね」
「どうしたじゃないよ。大変だ。――君、副長官の補佐官なら、こんなところで油を売っていてはだめだ。すぐに副長官のもとに戻りなさい」
「……え?」

 大げさな言葉に目を点にする。
 けれどそう思ったのはミレッラだけのようで、他の面々は本気で恐れているようだ。

「ほら、初日ならなおさら。あの方は性別年齢身分に関係なく容赦がないからね」
「ああ、わかる。私はこれから南部地方の財政報告を上げるんだが……計算がどうやっても合わなくてね。でもこれ以上締め切りは延ばせないし……胃が痛くて仕方ないよ」