それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 理由なく一方的に反故にした場合は、契約を違反した側に罰を設けたにもかかわらず、目の前でカリーナの谷間に鼻の下を伸ばしているエーゲハルトは、それを恐れている様子はない。

(おかしい……どうして……)

 そこでハッと気づく。
 ミレッラは急いで踵を返して、屋根裏にある自分の部屋へ走った。
 壊れかけの扉を開けて、鍵のかかる引出しに手を掛ける。そこで開かないのが正解なのに、引出しは簡単に開けられてしまった。
 そしてその中には、あるはずの契約書がなくなっていた。

(そんな……っ)

 顔から血の気が引いていく。
 叔父から爵位を取り戻す、唯一の作戦だったのに。
 叔父から領民を救えると信じた、たった一つの正解だと思っていたのに。
 やはりこの屋敷に、己の味方はいなかった。