それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう


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「おはようございます、副長官」
「おはよう」

 財務省は、上から見ると中がくりぬかれた四角い形をしている建物のうち、市街地側にある北殿内が勤務地となっている。
 そこには財務省以外の他省も集まっていて、国の政治の中枢とも言われている場所だ。ちなみに、同じ敷地内にある隣の建物が、王族の暮らす王宮である。
 ミレッラは、ロランの後ろについて歩きながら、三階にある彼の執務室へ向かっていた。
 彼が持つ地方財政長官という役職は、財務省長官、次長と続き、三番目の地位に当たるらしい。
 財務省長官と区別するために『副長官』と呼ばれているようだが、まだ二十二歳の若さでその地位にいるのは――彼が王族の末席に名を連ねるとはいえ――彼の有能さが窺い知れるというものだ。

「おはようございます、副長官。早々で恐縮ですが、決裁をお願いしたい案件がありまして」

 ロランはまだ自席にすら着いていないというのに、先ほどからこういう声掛けが多い。簡単な案件なら歩きながら回答し、じっくり検討するものは後で執務室に来るよう返事をしている。
 その判断スピードに、ミレッラは内心で舌を巻いていた。