それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 ロランの補佐官なら、相当苦労して用意してくれたに違いないと思って、ミレッラなりの感謝のつもりで要求に応じたというのに。
 先ほどのロランの目が、頭から離れない。
 ミレッラのキスを待つ、獰猛な緑の瞳。

「――ちなみに」

 彼の声がいつもよりワントーン低い。

「クズな元婚約者に、ミレッラからしたことは?」
「ないわよ。むしろなるべく避けてたもの」
「……そうか」

 自分から聞いておいて素っ気ない返事にムッとする。
 なぜ今あんな男のことを思い出させたのだろう。早く記憶から抹消したいくらいなのに。

「ミレッラ」
「今度はなに?」
「俺は、仕事に関しては厳しいぞ」
「突然ね。でもそうらしいわね」
「悪いが、ここまではお膳立てしても、使えないとわかれば家に戻すことも厭《いと》わない」