それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

「あなた、実はおもしろい人だったのね。ふふ、おかし」

 こんな風に笑ったのはいつぶりだろう。両親が健在の頃以来かもしれない。
 貴族令嬢として顔に微笑を浮かべていても、心の底から笑えることはなかった。
 両親の守ってきた領地と領民を守るために必死で、そんな余裕なんてなかったから。

(じゃあ私、今はその『余裕』があるのかしら)

 ここに嫁いできてからは、暴力に晒されることなく、おいしい食事も出てきて、甲斐甲斐しく世話をしてくれる専属のメイドや、守ってくれる騎士もいる。
 まるで温かいお湯に浸かっているような、心地好さの中を揺蕩っているような、そんな毎日を過ごしていた。
 おかしな話だ。ここには復讐のために来たというのに。

「俺も前から思っていたんだが、『あなた』と言うのはやめないか」
「旦那様?」
「名前で呼べ」
「ロラン様ね」
「ロランでいい」

 意外な願いに、目をきょとんとさせる。