それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 彼女の言いたいことが手に取るようにわかるため、ミレッラは視線を返せずにいた。

「奥様、旦那様とはお出掛けにならないのですか?」

 痺れを切らしたセレナが直球で訊ねてくる。一瞬、控えていた他のメイドがまたセレナの口を塞ごうとした気配を感じとったが、ミレッラが目で制す。
 セレナは良くも悪くも素直で、表裏がないタイプなのだと最近わかってきた。
 表裏のありすぎる叔父やカリーナに睨まれて過ごしてきたミレッラにとって、そんなセレナは安心して信頼できる人でもある。
 だからこそ、無下にできない。

「えーと、その旦那様がお忙しそうだし」
「でもでもっ、奥様からお誘いすればきっと優先してくださいますよ!」
「そ、そうかしら」

 それはなさそうだけど……と読んでいた新聞をテーブルに置いた時、セレナが突然目を丸くして口元を両手で覆った。
 不思議に思って小首を傾げるのと、後ろから誰かの腕が伸びてくるのはほぼ同時だった。

「そうだな。愛する妻のためなら、いくらでも時間を空けよう。寂しい思いをさせてすまなかった」

 ちゅ、とこめかみにキスされる。驚きながら振り返ってようやく、ロランの姿を認めた。