それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 新婚の夫婦なのに、夫は朝にはいなくなっていて、妻は夫の見送りにも出ない。最悪だ。

(一応、周囲には賭けのことを秘密にしているから、私たちは夫婦を演じる必要があるのに)

 恋愛結婚した夫婦のように仲睦まじくしなくても、せめて政略結婚した夫婦くらいの仲は見せておかなければならないはずだ。

(でも政略結婚した夫婦って、どういう感じかしら。こんな感じでも誤魔化せるなら別にいいんだけど)

 思い悩んでいるうちに支度が整い、部屋のテーブルの前まで移動する。
 メイドたちが朝食を給仕するまでの間に、セレナが銀のトレイに載せた手紙を持ってきてくれた。

「こちらは奥様宛でございます」
「ありがとう。いったい誰から……」

 まさか叔父かと思って受けとりたくないわと沈んでいた気持ちが、宛名を見た瞬間に吹っ飛んだ。
 それは、イラニア伯爵領に残してきた領民たちからだった。
 急いでペーパーナイフで開封すると、そこにはこう綴られていた。