それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 ただ確実に言えるのは、この男はひと筋縄ではいかないということだ。

「だったら、かわいそうな私に同情してくれないかしら」
「何がお望みだ?」

 ニヤニヤとこちらの出方を窺ってくるロランに内心でムッとして、しかし気を持ち直すように深呼吸をする。腹を立てて彼のペースに呑まれるのはまずい。
 そのためにも一度体勢を立て直そうと、彼の胸板をぐっと押した。びくともしない。

「話がしたいからどいてくれる?」
「このままでもできるだろ?」
「この体勢で真面目な話をしろって言うの?」
「真面目な話を今持ち出すのが野暮だと言っているんだ」

 ロランが親指の腹でミレッラの唇をなぞる。

「俺の前に婚約者がいたな。さすがに純潔は守っていただろうな?」
「当たり前でしょう!」
「キスは?」
「っ……それは、その……」
「そうか。ならまずは、そこから上書きさせてもらおう」
「上書きって、結婚式でしたじゃない」

 すると、ロランが失笑した。

「あんなのはお子様のするキスだ。今この場に相応しいのは、もっと大人のキスだろ」