それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 奪ったグラスをサイドテーブルに置いたミレッラは、彼の胸元にしなだれかかった。

(えーと、確かこの後は、男性の首に腕を回して……)

 未亡人の手管をなぞるように、ロランの首に手を回そうとする。
 しかしハイヒールを履いていない今のミレッラには回しきれず、急遽彼の頬に手を添えるだけにした。
 そのまま彼の顔を自分に近づけようとした時、仮面に隠されていない彼の唇からふっと吐息が漏れ聞こえてくる。
 どこか人を小馬鹿にするような漏らし方に、ミレッラは眉を顰めそうになるのをぐっとこらえた。

「俺の妻は、どうやら男に慣れていないらしい」

 ぎくりと肩を強張らせるのと、ロランがミレッラの腰を抱き寄せるのは同時だった。

「虚栄を張って慣れているふりをするのは、何かよからぬことでも企んでいるからか?」

 形のいい唇が意地の悪い弧を描く。顔も性格も醜男だと噂されている彼だが、確かに性格はひと癖ありそうだと歯噛みする。
 さっそくこちらの思惑の欠片でも掴まれるなんて、自分の演技はそこまで下手だっただろうか。エーゲハルトにはちゃんと通用していたのに。