それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 自分の立てた捨て身の復讐計画は、目の前でグラスにワインを注いで呷る男の協力がなければ始まらない。
 本当はアルコールの力を借りて自暴自棄になりたいくらいだけれど、理性を手放すわけにはいかないのだ。

(主導権を握るのよ。相手が公爵だろうと鬼官僚だろうと、遠慮なんかしない)

 ミレッラはそっと立ち上がると、グラスに少しだけワインを残したまま佇むロランのもとへ歩み寄る。
 そしてグラスを持つ彼の手に、自分の手を這わせるようにしてグラスを奪いとった。
 ちらりと見上げると、仮面の隙間からエメラルドみたいに美しい瞳と目が合う。如才なく微笑んだミレッラがその瞳に映っており、その姿はさながら男遊びの激しい未亡人のようだと自分で思う。
 ――完璧だ。そう内心でほくそ笑んだ。
 別に未亡人全員が男遊びをしているとは言わないが、ミレッラがいつかの夜会で目撃したのは、男を取っ替え引っ替えしていると有名な未亡人が、妖艶な微笑みと仕草で相手の男性を骨抜きにしているところだった。
 あの瞬間は心底場所を考えてほしいとげんなりしたものだけれど、今この瞬間においては『お手本』となってくれている未亡人に感謝しかない。