それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 セレナが途中で声を低くしたのは、もしや『旦那様』の真似をしたからだろうか。
 残念ながら似ているか否かの判断ができるほどロランと会話を交わしていないのでなんとも反応に困るが、彼女が相当お茶目な性格であることはほぼ確定した。

「しかも旦那様ったら、せっかくやっと見つけた貴重な奥様なのに、この後も――あつぅ!?」

 話しながら興奮したらしいセレナは、間違って紅茶のポットの側面に触れてしまったようだ。彼女は人と話す時に相手の目をしっかり見て話すようで、それがあだにもなっていた。

「ここはいいから、すぐに冷やしてきなさい」
「お、奥様……なんてお優しい」
「こんなことで感動してないで、早く。痕が残ったら大変よ」
「ありがとうございます、行ってき――ぎゃっ」

 今度は急に方向転換したせいで、また何もないところで躓いていた。

(……マシュー。最初からそんな気はしていたけど、あなたの娘、『少々』どころか『結構』おっちょこちょいなのでは?)

 そう思っても、やはり顔には出さなかったミレッラである。壁際に待機している他のメイドたちがミレッラからすっと視線を逸らしたので、彼女のそれは日常茶飯事なのだろうと窺えた。