それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 噂は当てにならないと、今日改めて実感した。

(それとも、仮面の下にはよほど醜い傷痕があるのかしら)

 馬鹿馬鹿しい、と内心で吐き捨てる。顔の造作など本人の希望で作られるものではない。整っていようがいまいが、神にしか触れられぬ領域である。
 そんなところで評価するよりも、本人の資質が出る人柄にこそ重きを置くべきだ。
 ロランは『財務省の鬼官僚』と呼ばれるほど容赦がないとの噂だが、プライベートではどういう人間なのだろうか。

(それによって、私の出方も変えないといけないわね)

 神父の進行により厳かに式が進んでいく。
 仮面をしているせいでロランの表情は読みにくく、とりあえずミレッラの姿を認めて口元がわずかにも動いた様子はなかった。
 やがて婚姻証に署名をし、結婚指輪を薬指にはめ合い、義務以上の何ものでもない無機質なキスをする。
 嫌悪感も好感もないキスが、こんなにも感情を生まないのだと初めて知った。
 さすがに元婚約者に迫られてキスはした経験があったけれど、彼のときは下心が丸見えだったので嫌悪感でいっぱいだった。
 ロランには、その下心さえ見受けられない。