それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

(彼が、ロラン・ディ・オルブライト。恐ろしいほど存在感のある人ね)

 冷や汗が背中をつうと伝っていく。これからミレッラは、嵐が起きても崩れない大きな壁のような男と、渡り合っていかなければならないらしい。
 それは叔父やカリーナを相手にするよりも、はるかに険しい道かもしれない。

(上等じゃない。そのほうがやりがいもあるってものだわ)

 ミレッラはベルベットのヘッドドレスの下で、わずかに口角を上げた。この距離だ。ロランには強がった笑みなど見えていないだろう。
 ゆっくりと、覚悟を決めるように絨毯を踏みしめていく。
 彼にどんな思惑があって結婚式がこんなに早く執り行われることになったとしても、どうでもいい。
 ロランは後継者が欲しい。ミレッラは叔父から爵位を奪い返したい。
 これはそう、ふたりがそれぞれの目的のために選んだ道である。
 その道の先で彼の人生と自分の人生が交わり、結婚することになった。ただそれだけのことで、それ以上でも以下でもない。
 間近で見る彼は想像より背が高い。ハイヒールを履いているミレッラより頭一つ分ほど高いので、靴を脱げばその差はもっと開くはずだ。
 仮面に覆われていない口元は、固く閉ざされている。