それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

「セレナ。余計な話はそこまでですよ。ブランデール様がお逃げになったらどうするのですか」
「あっ。それは困りますねっ。ええとあの、他のご令嬢は面倒でも、お嬢様にはそうではなかったということで――きゃっ」

 焦って弁明を始めたセレナが、何かに躓いて転びそうになった。ミレッラは咄嗟に彼女の前に腕を差し込むと、なんとか転倒を防ぐ。

「まあ、なんて頼もしい……」

 感動したように瞳をきらきらさせるセレナの視線から、そっと逃れる。なんだか危なっかしい子だわと思っていたら、視線を逃がした先にセレナが躓いた地面があり、そこに小石や段差など躓く原因が何もないことに気付く。

「セレナ、いつまでブランデール様の腕に寄りかかっているのです。早く自力で立ちなさい」
「も、申し訳ありませんっ」
「ブランデール様、セレナを助けていただきありがとうございます。少々騒々しいところのある娘ですが、仕事はきちんとこなしますので、どうかお許しくださいませ」

 父娘から揃って頭を下げられ、ミレッラは「大丈夫よ」と答えた。
 むしろ内心では「咄嗟に腕を出した私、よくやったわ」と動揺しながら自画自賛しているなんて、誰も気付きはしないだろう。ミレッラの貴族としての『仮面』は、これまで誰にも見破られた試しはない。