それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 先ほどまではロランとの間に書記官がいたためそうでもなかったが、こうして間近で見ると、この男には逆らわない方がいいという畏怖の感情が沸き起こってくる。
 しかし頬を叩かれて怒り心頭だったカリーナには周りが見えていないのか、あきらかに不機嫌を露わにしているロランに食ってかかった。

「あなた! ミレッラの旦那よね!? ちょうどいいわ、聞いて驚きなさい。あなたの妻はね、旦那(あなた)がいながら他の男に穢されたのよ! 傷物なの! かわいそうにね。そんな不気味な仮面なんかしているから妻を寝取られるのよ!」

 その瞬間、会場の空気がしんと静まり返る。
 ここにいる全員が、怖いもの知らずのカリーナに内心で暴言を吐いたことだろう。公爵を相手になんて口の利き方だと。
 自分の娘ながら、まさかこれほどの馬鹿だとは思わなかった。
 もう口を閉じろと怒鳴ろうとした時。

「へえ……それはおもしろい話だな」

 ロランが冷笑を浮かべた。顔の上半分は仮面で隠されているにもかかわらず、感覚的にそうとわかるほど場の空気が凍った。

「だそうだが、どうなんだ? ミレッラ――」


   *


 水を向けられたミレッラは、呆れたように嘆息してから答えた。