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身一つでいいと言われたため、本当に身一つで王都にあるリステア公爵邸に到着したミレッラは、公爵家の執事と思われる年配の紳士の手を借りて、馬車から降りて地に立った。
目の前にそびえ立つ大きな建物を見上げる。同じ貴族でも格が違うと畏怖するほどに大きいそれは、厳格そうな雰囲気まで漂わせている。
全体的に奇妙なくらい平坦で、おそらく母屋を中心にシンメトリーとなっているのだろう。外観と同じく一世紀前の流行を取り入れているのなら、おそらく両翼は来客用の部屋が並んでいるはずだと推察する。
そして玄関アプローチにずらりと並んで出迎えてくれた使用人の多さにも、心の中でびっくりする。
ただ、ロランの姿はどこにも見当たらない。
彼は仮面をしているはずなので、社交界で見かけた程度の認識しかなくても見つけられる自信があるが、どれだけ見回しても仮面をしている人間は見つけられなかった。
「長旅お疲れ様でございました、ブランデール様。わたくしは当家の執事長を務めております、マシュー・ ブリストルと申します。本来であれば主人も共に出迎える予定だったのですが、実は主人の準備がまだ整っていないのです。あなた様にもこのあとお支度を整えていただきますが、まずはメイドのセレナがお部屋へご案内いたしますね」
てきぱきとミレッラを誘導する執事だが、その言葉に違和感を覚える。準備やら支度やら、なんのことを言っているのだろう。
