それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 そこには、次期イラニア伯爵として次男(おとうと)を据えると書き記してあった。
 親族一同の前でそれを発表された時、頭が真っ白になったことは今でも忘れていない。家督は長男が継ぐのが当たり前の時世で、まさか次男に譲るとは思わないだろう。とんだ恥をかかされた。
 遺言状には、代わりに長男には子爵の位と領地を渡すと記載されていた。
 子爵領は広大だが、そのほとんどが草や木が生い茂るだけのつまらない土地である。弟は自給自足ができる素晴らしい土地だねと口にしたが、嫌みにしか聞こえなかった。
 葡萄が採れたところで何になる? 野菜が収穫できたところで何がうまい?
 みすぼらしい土地には怒りが募った。
 それに比べて伯爵領は、商業都市と呼ばれるほど活気づいていて、観光客も多くどんどん金を落としていってくれる。
 華やかな街こそ、自分には相応しい。
 逆に自己主張の弱い地味な弟にこそ、子爵領のような寂れた町がお似合いだ。

(まったく。あの日、ミレッラも共に出掛けていてくれれば邪魔者がまとめて消えてくれていたものを)

 絨毯の敷かれた廊下を進みながら、伯爵は舌打ちした。
 弟夫婦は馬車の事故に遭って亡くなったが、本来その馬車には、娘のミレッラも乗っている予定だったという。