それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 ついに始まった今年の社交シーズンは、例年通りデビュタントを幕開けとし、王都に華やかさと平素以上の賑やかさを運んできた。
 さすがにこの時期になると口から出る吐息は(しら)み、温もりが恋しくなる。
 脂肪は天然の毛布と言われているらしいが、とてもそうとは思えないなと、イラニア伯爵は自分のお腹を見下ろしながら思う。
 ただでさえ最近丸みを帯びてきた身体が、服を着込んだことにより余計に大きく見える。
 だから冬は嫌いなんだと、鼻から苛立ちの乗った息を吐き出した。

(せっかくの贅沢三昧に水を差しおって、財務省め)

 自家の馬車から降りて王宮の政務棟側の玄関アプローチに足をつけた伯爵は、夜会や食事会のために今日ここを訪れたわけではない。
 娘のカリーナは、遅れて始まる第一王子主催の交流会に出席予定だが、父である伯爵は、まったく楽しくもおもしろくもない監査報告会議に出席しなければならなかった。
 娘を羨みながら、伯爵は出迎えた官吏によって会議場へと案内される。
 王宮は広い。一応議決権を持つ貴族議員として社交シーズン中は何度も通う場所だが、その時々に用のある場所しか立ち入ったことはない。
 そのため知らない道も数多く存在するが、今回案内されている道は覚えのあるもので、伯爵はほくそ笑んだ。