それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

「でもここには『お茶』が何もないわ。ねえ、お二方。私、最近流行りの珈琲というものを飲んでみたいの。買ってきてくださる?」
「あ? 何言ってんだこいつ。おい、お嬢様。あんた自分の立場わかってんのか?」
「そちらこそわかっていて? この状況を」

 その瞬間、馬車の扉が勢いよく開いた。乗り込んできたのは、リステア公爵家が抱える私設騎士団の騎士だ。
 紺色の制服を着た騎士が、ミレッラの脇を固めていた男をひとり、引きずり下ろした。
 入れ替わるように入ってきた別の騎士が、もうひとりの暴漢の腕を掴んで無理やり引っ張ると、同じように馬車から引きずりだしていく。
 男たちの喚く声を遮るように、ミレッラは馬車の扉を閉めた。そうしてもとの位置に座り直すと、少しも驚いていないスヴェンへ挑発的な眼差しを向ける。

「さあ、これで邪魔者はいなくなったわ。私と楽しい楽しいお茶会をしましょうか、スヴェン・ランドウッド」

 ここにきてようやく、彼の目が丸を描いた。

「あなたにご褒美をあげましょう。あなたがずっと欲しがっていたものよ」
「へえ……なんです?」
「『私』」

 ミレッラは自信満々に彼へと手を差し出した。

「あなた、ずっと私が欲しかったのでしょう? いいわ、あげる。だから今度こそ、この誘いに頷いてちょうだいね? ――『私のもとにいらっしゃい』、スヴェン」

 なにせ彼こそが、ミレッラも求めていた人物なのだから。
 互いの好戦的な視線が交差する。
 彼がこの手をとってくれるか否かで、ミレッラの今後は大きく変わるだろう。
 馬車の中が緊迫感に包まれる。スヴェンが動いた。
 彼はやはり表情を変えず、腰を持ち上げると、ミレッラへと手を伸ばしてきた――……。