それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

「セレナ、ちょっとあそこに――」

 寄っていきましょう、と自分の目的も忘れてベーカリー店に入ろうとした時、

「あれ、あなたはこの前の」

 と、聞き覚えのある声が聞こえてきて、ミレッラはそちらを振り向いた。
 軽く片手を上げながら近づいてくるのは、焦げ茶色の髪をひとつに括った優男、スヴェンだ。
 中性的に整った顔をフル活用した微笑みを浮かべて、ミレッラのそばで足を止めた。

「久しぶりね、スヴェン。あなたも買い物?」
「ええ。主人にお遣いを頼まれまして」
「あなたの主人は上級貴族なのね?」
「さあ、秘密です」

 無駄に色気のある顔で目を細めたスヴェンに、ミレッラは軽く肩を竦める。

「ところでお嬢様。再び巡り会えたのも何かの縁です。もしよかったら、僕に力を貸してくれませんか?」
「なんの?」
「実は主人に宝石を買ってくるよう頼まれているのですが、僕では真贋の判別がつかないのです。イミテーションを掴まされると僕がお仕置きされてしまいますので、お嬢様の目利きの力を拝借できないでしょうか?」

 なんて下手な誘い文句だろうと、ミレッラは内心で笑ってしまう。
 貴族が宝石を買うなら、まず宝石商を家に招くのが通例だ。
 彼はミレッラをそんなこともわからない世間知らずだと思っているのだろうか。