それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

「なんだ、嫌な予感がするな」

 ロランが目元を引きつらせる。
 対するミレッラは、そんな彼の反応などお構いなしに、おもむろに口を開いた。

「あと一回だけ、お茶会をさせてくれないかしら?」
「おい、まさか……」
「ええ。ある殿方とのお茶会よ」

 弾む声で答えたミレッラに、ロランが(のち)に「小悪魔はここにいたと思った」と語ったのだが、それはまた別の話としよう。


   *


 ロランからお茶会の許可を得たミレッラは、メイドのセレナと一緒に再び王都のメインストリ―トを歩いていた。
 高級店の建ち並ぶここはウィンドウショッピングをするだけでも気疲れするが、公爵夫人である今は値段に気後れする必要はない。
 ロランが送りだす時に「気に入ったものがあれば買っていい」と言ってくれたけれど、肩書きが変わってもそう簡単に金銭感覚は変わらなかったようで、自分には過ぎたものだと感じてしまう。
 こういうものよりも、ミレッラの関心を引くのは、先ほどから鼻腔をくすぐっている芳ばしい香りだ。おそらく焼きたてのパンの香りだろう。お腹の虫が鳴る。