それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 それらを買うほどの余裕はないはずなのだ――たとえば、脱税のような後ろ暗い真似をしていない限り。

(そうよ、もし叔父様に、やましいことがあれば? 事によっては爵位剥奪を免れないわ)

 もうこれしかないと思った。叔父の不正を暴き、爵位を国に返還する。そうすれば、次の領主が誰になるかわからないとしても、今よりは領民もマシな生活を送れるようになるだろう。
 本当は両親との思い出が残る地を手放したくはなかったけれど、もうそんな甘いことは言っていられない。
 婿入り作戦を阻まれた今、ミレッラに残された選択肢はこれに尽きる。

(冷酷だろうが醜男だろうが上等よ。利用できるものは利用する。……ただ、私が今思いついた計画を、今度こそ叔父様やカリーナに知られないように立ち回らないと)

 ミレッラは叔父を睨み続けた。婚姻を不服に思っている、と信じ込ませるために。
 ミレッラが睨めばすぐさま文句を飛ばしてくる叔父だが、今だけは機嫌よく口角を上げていた。
 叔父が口を開く。

「荷造りは必要ない」

 カリーナが嘲笑と共に告げる。

「身一つでいいそうよ。よかったわね、ミレッラ」

 そして、つい数刻前まで婚約者だと思っていたエーゲハルトが、へらりと笑った。

「罪作りな僕を許してくれ、ミレッラ。婚家では僕のことは忘れたまえよ」

 ミレッラはすっくと立ち上がった。
 もはやここに用はない。間抜けな女と嘲笑いたいなら思う存分嘲笑うといい。

(お父様、お母様。領民のみんな。一時的に領地を離れるけど、必ずまた戻ってくるから)

 応接間の扉まで意識して姿勢よく足を運ぶと、優雅に一礼してみせる。

(必ず、みんなを取り戻してみせるから)

 扉が完全に閉まるそのときまで、ミレッラは仇敵の顔を睨み続けた。