それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 口から吐き出してしまった本音は、どう足掻いても取り消せない。
 ロランが口を開けたまま固まってしまった。心底驚いている様子から、ミレッラの気持ちになんて露程も気付いていなかったのだろう。
 彼はこんな女を愚かだと笑うだろうか。自分からあんな賭けを持ちだしておいて、結局彼に心を奪われてしまった女を、滑稽だと嘲笑うだろうか。
 ――いいや。
 ロランがそんな(ひと)でないことはわかっている。
 彼は職場で『鬼官僚』と呼ばれているが、だからといって他人を小馬鹿にするような人ではない。
 ロランなら、きっとミレッラを憐れむだろう。あるいは、嫌悪感を見せるだろう。
 ロランの膝の上に乗っていたミレッラは、下りようと身体をずらした。が、その前にロランに腕を掴まれる。

「言っていい」
「……何が?」
「だから、あなた以外の女性と幸せになるなと、ミレッラになら言われたい」

 ロランの真剣な眼差しに射貫かれる。
 すぐに言葉の意味を呑み込めなくて、ミレッラは一度脳内でロランの言葉を繰り返した。
 そしてようやく咀嚼できた後、口角をひくつかせた。

「冗談はやめて。私、確かに勢いで言ってしまったけど、本気よ。出任せでも嘘でもないわ」
「なら、なおさら言ってくれ。確かに好きな女性はできた。その人は――」