それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 背中にセレナの呼び止める声が届いていたが、気にしている余裕はなかった。
 ミレッラの部屋とロランの部屋は、隣り合ってはいなくても近い場所にある。
 すぐに目的の扉まで辿り着き、部屋の主の許可も得ずに扉を開け放った。
 しかし前室に彼の姿はない。時間帯も時間帯なので寝室かと目星をつけると、すぐにそちらへ足を向けた。
 こちらもまたノックなどせず勢いよく開ける。
 目的の人物はすぐ目の前に現れた。ミレッラが勢いに任せて扉を開けたせいで、隣の部屋の騒がしさに気付いた彼が様子を見に行こうとしたのだろう。
 突然のミレッラの登場に目を丸くする彼の腕を掴み、ベッドまで問答無用で連れていく。
 常なら体格のいい彼にこんなことはできなかっただろうが、ミレッラの行動に頭がついていけていないらしい今のロランは、されるがままベッドの上に押し倒されてくれた。
 ロランは足だけベッドの外という中途半端な体勢でも、それより自分の上に乗り上げてきたミレッラの大胆さに目を白黒させている。

「なんで今さら、賭けを放棄するのっ?」

 彼の厚い胸板に両手を置いて、逃げないよう体重をかける。
 ロランが目をまばたいた。

「放棄? なんの話だ」
「しばらく夜はなしって言ったそうじゃない」