それでは旦那様、私と賭けをいたしましょう

 誰もが醜いと恐れた本物そっくりのメイクを、偽物だと見破っていたわけでもないのに、恐れずキスをするという芸当までしてみせたのだ。
 その後にメイクを取れば顔色が変わるだろうかと怖い物見たさで素顔を晒してみたが、彼女はメイクに驚きこそすれ、態度が変わることはなかった。
 どんな見た目でも、ロランをロランとして見てくれる女性(ひと)
 彼女にとっては、何気ない行動だったのだろう。けれどロランにとっては、無意識にもずっとずっと心の底から求めていた理想(ひと)だった。
 そんな彼女が、領民思いで、逆境にも負けない強さを持っていて、なのにロランに翻弄されるかわいいところがあるのだと知ってしまえば、惹かれないわけがないのだ。
 何かひとつを取って惚れたというよりは、彼女のいろいろなところが自分にとってツボだったのだろう。
 ――惚れた女性の願いなら、できるだけ叶えてやりたい。
 だから男用の避妊薬も飲んで、彼女の復讐に協力して、その間に虎視眈々と身体だけでも堕とそうと画策した。
 そうすれば賭けの結果に関係なく、彼女を手に入れられると本気で信じていたからだ。
 彼女の復讐を完遂させてやりたい気持ちと、彼女を誰にも渡したくない気持ちの、賭けのせいで相反することになってしまった己の思いを、両方とも掬える方法はこれしかないと疑っていなかった。
 けれど今日、ミレッラが他の男と談笑している姿を目にした瞬間、己の愚かさに気付いてしまった。